“やらせる”から“考えさせる”指導へ 時代と共に変化していく野球の教育

「企業戦士」のような根性論、精神論から「自分で考える」人間が求められる時代

 要するに従来の「上からの押し付け」による知識や技術の詰め込みから、「自分で知識や技術を習得する」ための「学ぶ力」「生きる力」を身に着けることが重要だ、という方向に日本の教育そのものが変化したのだ。

 その背景には、社会の変化によって求められる「人材」が変化したことがある。高度経済成長期には、上司の指示に忠実に従い、苦しくても使命を果たす「根性ある」人材が必要とされた。当時、「企業戦士」という言葉があったが、まさに「戦士」のような人材が求められたのだ。その時期には子どもに対して厳しく叱るすることも必要だとされた。

 高度経済成長期、厳しく鍛えられたスポーツ選手は「企業戦士」として引く手あまただったが、今は、自分で課題を見つけ、自分で知識や技術を身に着ける人材が求められている。上からの指示で動くだけの人材はあまり重要視されていない。

 大きな目で見れば日本の教育、指導の変化は、こうした「求められる人材」の変化によって起こったのだ。

 部活も教育の一環だ。今は、部活指導も選手が自分の意志で学び、努力をして技量を向上させることが大事だという考え方が主流になっている。

「今の子どもは甘やかされている」というベテラン野球指導者の多くは、初心者には「厳しく言うとやめてしまうから、最初は優しく接して野球を好きになってもらうことが大事だ」そして、徐々に厳しい指導に耐えるように鍛えていくという。

 しかし、こうした考え方は「野球を好きになってもらう」というアプローチは同じでも、新しい指導法とは内容が全く異なる。昔の考え方の指導者は優しい口調であっても「ああしなさい」「こうしなさい」と指示をする。先に答えを言う。

 これに対し、今の考え方では、指導者は選手に優しく接するが「なかなか答えは言わない」。選手は自分で「答え」を探すことになる。悩む時間は長くなり、選手は一人で苦しむことになる。見方によっては今の指導の方が「厳しい」ともいえるだろう。しかし、自分で悩んでたどりついた「答え」は、その選手の身につき、資産となっていく。

 千葉ロッテマリーンズの吉井理人投手コーチは、指導者として経験を積んだのちに、筑波大学大学院でコーチングについて学び修士の学位を取った。

 その著書『最高のコーチは、教えない。』の中で、吉井コーチはこう語っている。

「コーチの仕事は、選手が自分で考え、課題を設定し、自分自身で能力を高められるように導くことだ」

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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