「今日が息子の最後の試合になる」 元甲子園実況アナが気付かされた球児の母の一言
2018年に朝日放送を退社し現在は「eスポーツ・キャスター」に転身した平岩康佑氏
日本高野連は20日、選手権運営委員会を開き、新型コロナウイルス感染拡大の影響で第102回全国高校野球選手権大会(8月10日開幕予定、甲子園)の戦後初となる中止を決定した。3年間の集大成を披露する場所を失った球児たちに特別な思いを抱く、甲子園で数々の激戦を見届けた元実況アナウンサーがいる。
夏の甲子園を含め高校野球の実況を行い、2018年に朝日放送を退社し現在は「eスポーツ・キャスター」に転身した平岩康佑氏だ。
「本当にかける言葉が見つからないです。これまで僕も最後の夏に挑む球児たちから色々なことを教わった。共に自分を成長させてもらった高校生たちの思いを考えると可哀想の一言では終わることはできません」
入社3年目でラジオ、そして4年目でTVでの実況にデビュー。“聖地”での実況はラジオデビューとなった2013年夏、修徳(東東京)対大分商(大分)戦。
「人生で一番、緊張した瞬間でした。これ以上のことはなかった。3年生の思い、最後の打席に立つ顔、甲子園が球児たちにとってどんな意味を持つのかが分かりました」
ベンチ入りが叶わなくともアルプスで同級生たちが声をからす姿、祈るような思いで見守る保護者……。グラウンドで戦う球児だけでなく、支えてきたすべての人の顔を想像し、彼らの思いを実況の言葉に込めた。
高校球児を支えたある保護者の思いが、実況アナとしての心得を教えてくれた。ラジオ実況を控える入社2年目には地方球場のスタンドで試合を見ながら実況の練習を行う。TV、マイクもなく状況の中、“観客の一人”として試合の状況を大声で練習する。
「たまに先輩がついてきてくれる時もあるのですが、基本は一人。休みの日とかに一人で球場にいって実況を始める。当初は本当に嫌だった。上手くもない実況を観客の人に聞かれ、『何やってんだ?』と変な目で見られることも多くて、今すぐにでも帰りたかった」
だが、自身の考えを改めさせられる一つの出来事があった。2012年、兵庫県大会で実況の練習をしているとビデオカメラを手にした1人の母親が話しかけてきた。