部員全員に送った1枚の手紙…滝川西・松木主将の失われた夏への想い

お笑いキャラだった男が、頼りにされるキャプテンに…

 本人に主将への就任を打診すると「どうしてもやりたいです」と即答だった。ただ、松木には一つだけ懸念があった。「やりたいけれど、自分は軽いキャラで、笑いの対象なので、何か言っても、みんなが聞いてくれるかどうか。自分の弱い部分を変えたいけれど、先生やみんなに迷惑をかけるんじゃないか」と案じていた。

「お前がやりたいなら任せる」と答えた小野寺監督は心を鬼にして、チームに何かある度にキャプテンに厳しい言葉をかけ続けた。「そのうちに、周りが松木の頑張りを認め『あれは松木のせいじゃないです』と言い出しました。最後はみんなが松木に頼るチームになったんです」と指揮官は言う。

 松木が頑張ったのは大好きな野球だけではない。苦手だった勉強にも全力投球した。滝川西は11月から2月中旬まで部活動の時間を勉強に充てる。「心を鍛えることを意識してボールをペンに持ち替える。試合を戦う集中力をつけることにもつながる」と信じて勉強に没頭し、今年2月には簿記1級に見事合格した。

 全選手が提出する野球日誌には、松木への称賛の言葉があふれている。ハガキ送付の後に入学した1年生のノートにも、ベンチでの声かけに「感動しました」とか「凄いです」という言葉が並ぶ。お笑いキャラだった男が、誰からも一目置かれ、頼りにされるキャプテンになった。北北海道大会優勝を目指した最後の夏は、空知支部代表決定戦で滝川に3-5で敗れて終わった。夢が叶わず涙を流した松木だが、最後は「全部出し切った」という思いが残ったという。

 滝川西は2017年夏の甲子園を沸かせたようにグラウンド内での全力疾走が代名詞だ。部活動を全力で駆け抜けた松木が目指すのは消防士。来月の公務員試験に向けて今は猛勉強している。新チームには「目の前のことを全力でやってほしい」と願う。それを聞いた布野は「松木さんがずっと言ってきた『甲子園で校歌を必ず歌う』という思いを引き継ぎます」と力強くうなずいた。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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