反対押し切り父が監督の名門校に…甲子園の夢絶たれても縮まった親子の距離

昨秋は初戦敗退、父から主将に指名された理由を考えた

 100人近い大所帯の名門校。櫻内は、2年の夏から控え捕手としてベンチ入りを果たした。新チームでは正捕手を担うも、迎えた秋の県大会は初戦敗退。悔しさの裏で、父からダブルキャプテンのひとりに指名された理由を考えた。「自分だけレギュラーをとるために努力をしてきても、高校野球は勝てない」。だから、自分にも、チームメートにも厳しく向き合った。冬場にはバント練習に明け暮れ、誰よりも球を転がした。任せられた打順は2番。自らの打撃成績よりも、勝利への犠牲が役目だと思ったからだった。

 迎えた3年の春。夏へと一心不乱に突き進むはずが、世の中は一変した。新型コロナウイルスの感染拡大により、春の選抜が中止に。収束の糸口は見えないまま、全国の球児が最後の望みにしていた夏の夢も奪われた。学校は休校中で、白球に悔しさをぶつけることもできなかった。

 在宅勤務となった父と過ごす時間は増えたが、あえて甲子園の中止を話題にすることはなかった。その代わりに、昼には温かい手料理を食卓に並べてくれた。普段はキッチンに立つことすらないのに、毎日腕を振るってくれる。中でも、炒飯とラーメンが最高にうまかった。言葉よりも身に染みる優しさが、普段は意識しない親子の距離を縮めてくれた気もした。

 無言のエールに背中を押され、主将は動いた。「自分がチームを支えなくては」。下を向くチームメートに声をかけ続けた。6月に練習が再開。仲間たちの目に力がみなぎっているのがうれしかった。最後の舞台として用意された独自大会に向け、3年生だけでなく全部員で競争。「どんなに頑張っても甲子園には繋がらないんですけど、優勝しかみていません」。心も、目標も、ひとつだった。

卒業後も父と同じ道目指す「家の中でも、野球でも、一番尊敬する人は監督」

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