肘に負担がかかる球種は? TJ手術の権威と元MLB右腕で一致した意見とメカニズムとは…

「トミー・ジョンするような子たちは、スライダーをいっぱい投げています」

 日本でもトミー・ジョン手術が一般的となってきた近年であれば、即手術という判断になっていたかもしれない。実際に、当時も手術対象の負傷と診断した医師はいたという。ただ、結局、藪氏はメスを入れることなく現役生活を続けた。

「ドクターによっては、これはオペ(手術)対象だよっていう先生もいましたから。結局、5か所くらい病院に行って、そうこうしているうちに3か月くらい経って、痛みが取れてきた。それで一応、保存療法というか、オペをせずに続けました。多分、あの時はちょっとは靭帯が切れていたと思います」

 スライダーを投げたときに負傷した可能性があるという藪氏の実体験に、古島医師もうなずく。

「スライダーを多投する人、高校生でも多投する人は、ちょっと先が持たない人が多いですね。やっぱり、うちの病院(慶友整形外科病院)でトミー・ジョン手術をするような子たちは、スライダーをいっぱい投げていますね」

 藪氏がスライダーを投じる際に故障の原因になる可能性があると感じていたのは、腕を「捻る」動きだという。スライダーを投げようとすると、腕を外側に回す形になるが、古島医師はこの動きにこそリスクがあると指摘する。

「人間がボールを投げる時に腕は必ず回内する(内に回る)んですね。だけど、スライダーで回外する(外に回る)と、前腕の屈筋(腕を曲げる時に使用される筋肉)が縮みます。だけど、回内するはずが回外することになるので、屈筋が引っ張られることになる。縮もうとしている筋肉に対して、逆の方向に引っ張られる動きになるので疲労が早いんです。それでパフォーマンスや筋肉の出力が落ちてくる。そうなると、屈筋は肘の内側を守る筋肉なので、もう直に靱帯に負担が掛かりやすい状態になってしまいます」

 投手が試合中に前腕部に張りや疲労を感じて緊急降板し、その後、靭帯損傷が明らかになって手術に至るというケースは少なくない。まさに、屈筋に異常が発生し、靭帯に負担が掛かっている状態と言える。

「多分そこです、僕がやったのは。靱帯の付着部だっていう先生がいたり、屈筋腱の付着部だっていう先生もいました。『これはオペやった方がいいよ』っていう先生もいましたね。結局、病院には5か所くらい行きましたけど、3対2で意見が多かった保存療法にしました」と藪氏。その後もキャッチボールなどは続けていたというものの「ボールに指を掛ける時が怖いので、しっかり自分の思ったイメージ通り、ガッとボールに指先を引っかけることはできませんでした」と振り返る。

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藪氏の体験を聞いた古島医師は「もしかしたら引退とかなっていたかも…」

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