「東大はあんなに弱いのになぜ六大学に?」9歳で疑問を持った東大野球部員の涙と葛藤

玉村主務(一番右)がブログに記した本音「毎回毎回、ちゃんと本気で悔しいです」【写真:荒川祐史】
玉村主務(一番右)がブログに記した本音「毎回毎回、ちゃんと本気で悔しいです」【写真:荒川祐史】

1年秋を最後に連敗街道、心ない外野の声に「毎回毎回、ちゃんと本気で悔しい」

 東京六大学のマネージャーという仕事は、大学生にして社会人顔負けの任を負う。

 100人を超える部員を抱え、その多くが寮生活。一緒に生活し、ちょっとした企業と同規模の組織を動かし、数百万単位の運営費を管理し、部を運営する。自分の名刺を持って、野球メーカーからマスコミまで渉外業務の窓口となり、早慶戦になれば3万人を動員するイベントを裏側で支える。

 しかし、下級生で経験したのは下積みの日々だ。入部当初は球場のゴミ捨て、監督・選手の送迎、弁当の手配、ユニホームの洗濯……。「雑用という言葉で片づけてしまえば簡単なようなことばかり。本当に野球に関わっているのかと思うことが多くて」と仕事に身が入らず、ミスも多かった。

 変えてくれたのは、当時の浜田一志監督だった。口酸っぱく言われたのは「愛を持って仕事しなさい」ということ。

「理由は言われなかったですが、自分の中で理解したのは、された相手がどう感じるかということ。そこまで考えて行動しないといけない。一つの資料作りの仕事にしても、どう置いたら、どう文字を書いたら読みやすいかまで考えて本当の仕事と教えられたので、それは大きかったです」

 東京六大学でマネージャーを務める学生の多くは、その役割について「マイナスを埋める仕事」という表現をする。当たり前に練習道具がそろい、当たり前に移動手段が用意され、当たり前に試合に臨むことができる。「自分自身もそれは感じていました」と言う。

「マイナスをゼロにしたところで選手からしたらフラットな状態で、褒められることはない。逆にマイナスを埋め切れなければ、選手に何やっているんだと思われる。相手が求めている以上のことをこなすことが思いやりではないかと実感してから、マネージャーの仕事が楽しくなりました」

 一方、当時の野球部は強かった。入学1年目は、4年生の絶対的エース・宮台康平(現ヤクルト)を擁し、秋にシーズン3勝。法大戦は2連勝で15年ぶりの勝ち点1を獲得し、野球界のビッグニュースとなった。その瞬間は、雑務をこなしていた球場事務室のモニターで目の当たりにした。

「もちろん、嬉しかったのですが、当時の自分は普通に喜んでしまったんです。思ってしまったのは『ここにいられてラッキー』ということ。まだ1年生で自分は何も貢献していないのに、ファンに近いくらいの立場で、当事者意識がないまま喜んでしまったことは間違いだったと思います」

 2017年10月8日。この日が玉村主務にとって、そして東大野球部にとって、葛藤の始まりになった。

 宮台の卒業以降、白星から見放された。0勝10敗、0勝1分10敗、0勝10敗、0勝10敗。4年生になり、気づけば勝利を知っている世代は自分たちだけに。1試合総当たり5試合の春は5戦全敗、2試合総当たり10試合の秋は8試合を終えて1分7敗。通算54連敗で最終カードの明大戦を迎えていた。

 幼い日に思った「東大はあんなに弱いのにどうして六大学に」という言葉が、今度は自分自身にのしかかる。

 世間で「東大生」はエリートの象徴であり、何かとそのバイアスがかかって見られる。しかも、体育会で最も華やかな東京六大学でプレーする野球部はなおさらだ。実際、「あれだけ負けてどんな気持ちなのか」「勉強の片手間だから、別に悔しくないんだろ」と心ない声に触れたこともある。

 しかし、文字にしてしまえば「通算54連敗」だけのことだが、期間にして3年間、同じ1日24時間を過ごし、その明晰な頭脳を野球に傾け、練習に明け暮れる。才能というハンデを乗り越えるために悩み苦しみ、生きている。その事実は、時間を共有している部員同士が一番理解していた。

「この秋の立大戦で土砂降りの雨で戦って1-1で引き分けた後、寮に帰ってきたら選手たちがグラウンドに出てきて。フル出場した主将の笠原(健吾)はティー打撃を始めたんです。風邪引くんじゃないかって心配したんですが、そういう姿を見ると『本当に野球が好きなんだな』って」

 マネージャーも想いは一緒だ。試合後、マネージャーは学ランを着用で整列する決まりがある。ただ、ゲームセットを聞いてからでは間に合わない。ただ、9回になっても勝利を信じている。上着に手をかけるのは、負けに備える行為と等しかった。だから、いつもそのタイミングに迷った。

 ごはんを食べている時も、風呂に入っている時も、ふと思った。「ああ、勝ちたいなあ」と。負けて悔しくない試合など、1つもなかった。

 ◇ ◇ ◇

 毎回毎回、ちゃんと本気で悔しいです。負け慣れてなんていないです。とにかく勝ちたい。ただひたすらにそう思います。この気持ちをあえて表現するのであれば、罪を犯してでも、人を殺めてでも勝ちたい。実際にそんなことはあり得ないですが、それでもこんな表現をしないと書き表せないぐらいの感情です。

 ◇ ◇ ◇

 こう記した言葉が、覚悟を決めて東大野球部に生きる者としての本音だった。

東大が六大学で戦う理由は「自分たちのため」とブログに記した真意

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