鷹・甲斐拓也が語る“捕手”とリードの裏側 投手の繊細さを示す日本Sでのワンシーン

日本シリーズ第3戦の投球練習中に投じたたった1球のカットボールでムーアに異変が…

 時に予期しないこと、ミーティングで想定していたこととは異なることが起こることもある。それに瞬時に対応し、扇の要は判断する。この繰り返しをひたすら1年中続けていく。抑えれば“成功”、どれだけ考え抜いたリードでも打たれてしまえば、それは“失敗”となる。

 投手たちの状態は日々異なる。調子が良い日もあれば、悪い日もある。むしろ調子が良くないことの方が多いくらいだ。例え、調子が良くても、特定の球種だけが使いものにならない時もある。「日によって使えない球種というのは必ずと言っていいほどあります。それでも全部の球種を投げるのが正解なのか。捕手は全てのボールの質を全部感じ取る。スピードガンの表示が同じ150キロでも『今日は見えやすい』と感じることもあります」と甲斐も言う。

 投手の繊細さを表す1つの例がある。日本シリーズの第3戦のことだ。先発のムーアは7回まで巨人打線をノーヒットに抑える好投を見せた。ムーアの主な球種はストレート、カットボール、カーブ、そしてチェンジアップ。ただ、この日、ムーアは武器の1つであるカットボールを試合中に1球も投げていない。

 正確に言えば、1球だけ、4回の投球練習中に投じた。そして、この1球が直後にムーアをおかしくさせた。試合前のブルペンからカットボールの調子は良くなかった。その一方でストレートの状態は良かった。ムーアと甲斐は試合前に話し合い、序盤はカットボールを使わず、ストレートで押していくことをバッテリー間で決めた。3回まで無安打投球。そのストレートが存分に威力を発揮していた。

日本シリーズ第3戦で甲斐とムーアのバッテリー武器のカットボールを1球も使わなかった

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