「しの! どうした?」 長嶋茂雄氏と篠塚和典氏だけが知るサインミス事件
サインミスの出来事は横浜スタジアムでも起きた、その時、ミスターは……
スクイズにまつわるサインミス。篠塚氏は長嶋監督に救われた出来事もあった。横浜スタジアムでの横浜戦でのことだった。
「長嶋監督に助けられたことがありました。あるシーズンの4月最初の頃、寒い時期でした。試合展開は点が取れなくて、取れなくて。サインを出すこともなくて、体が冷え切ってしまったんです」
プロ野球が開幕しているとはいえ、まだ冷え込みがある屋外球場。巨人の先発、エースの斎藤雅樹氏が好投を続けていた。8回表の攻撃。打席にはその斎藤氏が入った。
「走者が三塁にいましてね、(足の速くはない)外国人野手だったんだよ。そこでスクイズのサインがベンチから出ました。でも、私が寒くて、寒くて、スクイズのサインのところに手がいかなかったんです」
体が固まってしまっていた。結局、斎藤氏はスクイズをすることなく、凡退し、点は取れなかった。長嶋監督はくるりとグラウンドに背を向けて、ベンチ裏へ下がっていった。篠塚氏はその背中を追いかけた。
「監督は『しの、どうした? スクイズのサイン、出したぞ』と。自分もすみません、と謝って理由を説明しようとした時、『仕方がないよな、サードランナー、外国人だもんな』と言ってくれたんです。自分としては大変なミスをしているわけなんですが、監督は私を尊重してくれました」
決して許されるミスではないと反省している篠塚氏ではあるが、サインが出ていないことで、これをミスだと気がついている人は、誰もいない。知っているのは長嶋監督だけ。そのミスターは、篠塚氏が状況を判断した上で、サインを取り消したのだろうという見解だった。もしかしたら、サインミスをかばってくれたのかもしれない。ただ、そこには篠塚コーチとの信頼関係があったからこその言葉だった。
(Full-Count編集部)