ダルビッシュへのささやかな反抗 専属捕手との深い信頼関係が滲み出た“速い返球”
思い出す元エンゼルス監督のソーシア氏が語っていた話
スプリット、カッター、スライダー、カーブそして直球。決め球に5球種を使い7個の三振を奪ったダルビッシュを、阿吽の呼吸で導いたカラティニ。その好リードの一端が強打者を一飛に打ち取った打席で見られた。4回2死走者なしで対峙したのは直近4試合で3本塁打を放っている5番・ロンゴリア。直球とスプリットでカウント1-2と追い込んだ4球目だった。カラティニは腰を浮かせ内よりにミットを構えたが、投球は対角線に向かう外角低め。高低も違う逆球をなんとか捕球すると、カラティニは力を入れてダルビッシュに返球した。直前のスプリットがベースの手前でワンバウンドしていただけに、あの速い返球にはある種のメッセージが込められていたはず。
大谷翔平の二刀流を後押しし、3年前にエンゼルスを退いたマイク・ソーシア元監督がドジャースのベンチコーチを務めていた頃、現役時代にバッテリーを組んだハーシュハイザーへのリードで「たまに強い返球をしたもんだ」と話していたのを思い出す。その理由を、大事な局面で気を引き締めさせるための意思表示だったと言い、天才的な勝負勘を持ったハーシュハイザーが悪びれるふうもなくサインと違う球を投げてくることもあったと明かしている。その際には「怒気を込めて投げ返した」と名将は苦笑した。
今季2登板目も粘投で踏ん張ったダルビッシュは次回に向け「まだ直さなきゃいけないことはあると思います」とフォームの微調整を行うが、6回を1失点で先発の責任を果たした登板を「お互い考えながらゲームを組み立てられたと思います」とカラティニとの共同作業に納得した。
リードに忍ばせた“ささやかな反抗”――。ダルビッシュにとって、7つ年下のビクター・カラティニの存在はますます貴重になる。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)