弱者が強者に勝つ「言葉」と「数字」 敢えて三振の奇策も…知将が突き詰める確率
大事にしているのは言葉の質「『声出しています』はいらない」
ただ、光岡監督が大事にしているのは言葉の質であり、言葉の数ではない。意味のない声を出すことには否定的で「さあ行くぞ、頑張ろうといった声はいらない。それよりも、自分がどうしたいのか、相手にどうしてほしいのか、選手同士で会話をしてほしい。そういう声は考えないと出ないので」と話す。
藤枝明誠が重要視している走者をつけた守備練習。ノックバットを握った指揮官から声が飛ぶ。「今、走者をアウトにできなかった原因は何だ? ステップを使え」「その判断はベストだったか? 周りも声をかけろ。今の状況で一番考える余裕があったのは一塁手だろ」「『声出しています』はいらない」。時には大きく太い声で。時には特定の選手に語り掛けるように具体的な改善点を伝える。
声を出さない選手には、2つの理由があるという。1つは今の状況でどんな声を出せばいいのか分からない。つまり考える力が欠けている選手。もう1つは、相手に厳しい言葉を伝えることから逃げている選手。指揮官は「声を出せるかどうかは頭と心の問題。技術を伸ばすためなら、声を出さずに黙々とやった方がいい。ただ、全体練習は個々の力を上げるよりも、チームが勝つことに重きを置いている。だから、声が必要」と説く。
言葉の大切さと対を成す「考える力」を育むために、さらには言葉を裏付けるために、もう1つ大事にしていることがある。それは「数字」。「今のプレーでは遅いと言っても、何がどのくらい遅いのかイメージするのは難しい。納得させるには数字。数字を使って言葉で伝える」。守備練習で走者をつけて、場面ごとに目標タイムを定めるのも、そのためだ。
公式戦はもちろん、練習試合でも、指揮官自身がスコアブックをデータ化している。目指すのは「負けない野球」。いかに負ける確率を低くするかを考えて、独自の数字を出している。例えば、重視している数字に「3B+E」がある。Bは「四球」「ボーンヘッド」「バント(処理)」で、Eはエラーを表す。1試合あたり、これらの数がいくつあったか、その数が勝敗とどんな因果関係があったか、改善するためにどうすればよかったのかを選手に伝え、考えさせる。