水たまりで打球が止まる…無念の降雨コールド、阪神園芸が球児に見せた親心とは

遊ゴロが雨のグラウンドで“ピタリ”と止まる異様な事態に当事者は…?

「クライマックスシリーズの時は滑ったりはしていたけど、内野ゴロが止まったりはしなかった。でも今回はボールが止まっていたでしょ?」

 実際、試合は8回一死1塁で東海大菅生の本田が遊撃への内野安打を放って、中断された。捕球した大阪桐蔭の遊撃手・藤原夏暉が「ビックリしました。逆シングルでとりに行こうと思ったんですけど全然来なくて……。ボールが止まってしまったんでもうどうしようもないなって思いました」と振り返ったように、本田の打球はピタリと止まった。「このまま最後まで試合をやったとしたら野球じゃないなと思った」。30年以上、グラウンドを見守ってきた金沢さんにとっても初めての経験だった。

「プロ野球選手だと自ら『ちょっと投げにくい』と審判に言えるけど、高校生はなかなか言えない。なので、こちらから審判に『ちょっと滑っているから5回(の整備時間)じゃなくても、砂をいれましょうか?』と言って、砂を入れに行ったりはしていました」

 取材中、金沢さんが何度も口にしたのが「球児ファースト」という言葉だった。球児が躍動するグラウンドを整える一方、その夢舞台で怪我をしないかが1番の心配事だ。

「ピッチャーがバランスを崩すと、怪我につながる可能性があるから、とにかく投げるのを見ていた。バッターも滑ると危ないのですぐに砂を入れたりしましたね」。

 30年以上、球児を見守ってきた金沢さんの“親心”が裏側にあった。

 この試合についてはネット上で非難の声が相次いだ。しかし、今回、阪神園芸を含めた大人たちが戦った相手は誰にもわからない自然だった。連日、4時間睡眠で夜中には何度も目を覚まして天気予報を確認した。その中で球児にとっての最善を考え、行動した人たちがいたことを忘れてはいけないと感じた。

(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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