目立つ「キャッチボール禁止」の看板 東京に室内練習場を作った少年野球元指導者の危機感
「野球は大人がいないとできないスポーツになってしまった」
緒方氏は思う存分にバットを振る子どもたちをうれしそうに眺めている。首都圏に野球の練習場所をつくる必要性を強く感じているからだ。現在51歳の緒方氏は野球とともに歳を重ねてきた。子どもの頃は近所の公園で友達と野球をして、家に帰ればプロ野球のナイターをテレビ観戦。2年前までは、全国大会常連の首都圏にある中学生硬式野球チームの監督だった。2016年から3年間は、全日本シニアのコーチも務めている。
「この10年くらいで野球の環境は大きく変わりました。都内でキャッチボールができる公園は、ほとんどありません。子どもたちは、どこで野球をやればいいのか。野球は大人がいないとできないスポーツになってしまいました」
東京都豊島区で生まれ育った緒方氏が子どもの頃は、近くに野球ができる公園や空き地があるのは当たり前だった。学校が終わったら友達と待ち合わせて、暗くなるまで白球を追う。ところが今は、公園の入口に「キャッチボール禁止」の看板。はやる気持ちを抑えるようにバットを手にして「オードヴィーボールパーク」の近くで営業開始時間を待っている子どもたちが、警察に通報されることさえあったという。緒方氏は「昔も今も、子どもが野球をやりたい気持ちは同じだと思います。でも、今は野球をやりたくても、子どもたちの力だけではどうにもならないんです」と声を落とす。
時代の変化を受け入れていないわけではない。緒方氏は、子どもたちに野球以外の選択肢が増えたこと自体は歓迎している。だが、野球をやりたい子どもたちのための環境が整っていない現状を変える責任感と使命感を持っている。「子どもは変わっていません。変えたのは大人なんです。全ての子どもたちに野球を好きになってもらいたい、みんなに野球をやってもらいたいとは考えていません。野球好きの子どもたちを大好きにしたいと思っています」。