甲子園勝利直後にコロナで2回戦辞退 巣立つ東北学院3年生に監督が贈った言葉
教え子たちに求める“未来思考”の人生「過去の栄光にすがってほしくない」
レギュラーとしてチームを背負った人、ベンチで自分の出番に備えた人、自分の実力と葛藤してチームをサポートした人……。それぞれの力を結集させて挑んだ宮城大会では、全6試合中5試合が逆転勝ち。どんな展開にも慌てず、築いてきた戦いを貫いた。
春夏通じて初の甲子園でも、それは変わらなかった。1回戦の相手は春夏通算22度出場の愛工大名電。渡辺監督は「シートノックを見たら社会人野球」と苦笑するが、いざ試合が始まると選手たちは堂々と立ち向かい、初陣を飾った。いざ、2回戦へ――。ところが、選手ひとりが発熱。新型コロナ感染が判明し、2回戦は辞退した。
「ふとした拍子に、例えば、これから始まる選抜大会や夏の甲子園の話題で、その時の感情が蘇ることがあるかもしれません。(部員に対して)願いがあるとすれば、複雑ないろんな思いをしたチームメートがいて、そのどれもが間違いじゃないというところに思いを馳せてほしいということですね」
当事者たちの胸がチクリとする話題。探り、選びながら言葉を紡いだ渡辺監督。まっすぐな眼差しを向ける3年生24人に求めたのは、過去に生きるのではなく、未来に進んでいくことだ。
「過去の栄光にいつまでも、すがってほしくない。仮にだよ、甲子園で優勝したとしても、それは過去のこと。甲子園に出場でき、初勝利を挙げました、校歌を歌いました、それももう過去のことです。大事なことは、これからの人生にそれを生かして、より成長できるようにつなげていくこと。仲間を大切にして、これからの出会いも大切にして、“未来思考”でいつまでも自分が成長できるように。あの時点にとどまっている人はいないと思うけど、前を向いて、力強く歩んでください」
多くは新生活に向け、しばらく忙しい日々を送る。6分20秒の花向けの言葉の最後には「落ち着いたら、グラウンドに足を運んでほしい。後輩たちの頑張りも見て、激励もしてほしい。ここはみんなのホームグラウンド。いつでも開放していますので、遊びに来てもらえたら嬉しいです」と話した渡辺監督。3年間、学年主任も務めた世代との濃い時間は、素敵な“過去”だ。
「彼らにとっても、東北学院硬式野球部にとってもゴールではなく、ここからが始まりのような感覚です」
(高橋昌江 / Masae Takahashi)