肘の靭帯は全力投球に耐えられない 筋肉を鍛え故障を予防する“バットトレ”
肘関節の怪我予防に重要なこととは?
肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は井上彰さんと貝沼雄太さん。テーマは「肘関節の怪我予防」です。
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投球動作を解析する施設として米国で最も有名な「American Sports Medicine Institute」が投球による肘の負担を報告しています(※1)。この研究で対象となっているのは、平均22歳のトップレベルの投手26人。全力投球によって肘関節に加わる負荷は64Nm(ニュートンメートル)という結果でした。64Nmと言われても大きいか小さいか分からないと思いますが、肘の内側の靭帯(内側側副靭帯)の破断強度は32Nmと言われています(※2)。
全力投球によって64Nmの負荷がかかるのに、肘の内側の靭帯の強度は32Nm。残りの負荷はどうすればいいのでしょうか? その答えは「筋肉で支える」しかありません。成長期の場合は約30Nmと言われていますが、それでもギリギリです。
重要な筋肉は肘の内側にある尺側手根屈筋と浅指屈筋。最近の研究では尺側手根屈筋が投球に良く働くことが報告されています(※3)。尺側手根屈筋は手のひら側に手首を曲げる筋肉で、浅指屈筋は指を曲げる筋肉です。ツインズの前田健太投手は自身のYouTubeチャンネル「マエケンチャンネルKENTA MAEDA」で、指でダンベルを何度もつかむトレーニングを紹介しています。これは非常に良いトレーニングですね。
※1 Fleisig GS et al. Kinetics of baseball pitching with implications about injury mechanisms. Am J Sports Med. 1995, 23(2):233-9.
※2 Ahmad CS et al. Biomechanical evaluation of a new ulnar collateral ligament reconstruction technique with interference screw fixation. Am J Sports Med. 2003, 31(3):332-7.
※3 Lipinski CL et al. Surface electromyography of the forearm musculature during an overhead throwing rehabilitation progression program. Phys Ther Sport. 2018, 33:109-116.