「野球を教える」から「野球で教える」に転換 日本一達成した田舎の少年野球チーム
平日の練習は1時間、選手が「なぜ」を考える指導方針
選手の表情やチームの雰囲気から明るさが消えていった。チームのOBがグラウンドに顔を出すことも、ほとんどなかった。そして、高校の教師を務める尾崎代表は気付いた。「今の指導方法は教育ではない」。15年前、大人が子どもにやらせる野球から、子どもを主人公にする野球に転換した。
尾崎代表が新たに掲げたのは「野球を教える」ではなく「野球で教える」。試合に勝つための技術指導ではなく、野球を通じた教育を指導の中心に置く。練習は平日が火、木、金と3回で、1回1時間ほど。土日は主に練習試合や公式戦にあてる。練習メニューはキャッチボール、ノック、フリー打撃といった一般的な内容で、特別なものはない。
ただ、練習の意図や試合で見つかった課題を子どもたち同士で話し合うようにしている。練習試合の後は必ずミーティングを開くが、指導者は一切口を出さない。大切にするのは選手の自主性と、「なぜ」という理由付け。なぜ1死一塁の攻撃で犠打をするのか、なぜ無死二、三塁の守備で前進守備をしないのかなど、理由を理解して選手で共有する。野球を通じて自分の考えをまとめたり、仲間と協力して課題を解決したりする環境をつくっている。
野球が目的ではなく、社会で必要な知識や能力を身に付ける手段になっているため、中条ブルーインパルスの指導者たちは子どもたちのグラウンド外の行動にも気を配る。子どもたちが通う小学校と連絡を取り、学校での様子を把握する。尾崎代表は言う。
「野球をしている時は楽しそうでも、学校では違うかもしれません。グラウンドではしっかり挨拶ができても、場所が変わったらできなくなるというのも懸念しています」