スタンドに渦巻く怒号の嵐… “神様”の「ちょっと無理」が生んだ想定外の代打策
前田智徳をピンチヒッターに送るも、“代打の代打”を告げたワケとは
「打った時、よっしゃ、行ったぁってみんな言っていたんだけど、俺はこういう連敗が続いている時は風で押し戻されて、フェンスの手前で捕られるんだろうな、捕られるんだろうなって。入った瞬間にみんながウワーってやっているのに、俺だけ下向いて、ホーーってやっていたからね。ホッとした。本当にうれしかったね」。その試合を8-5で勝利し、そこからカープは6連勝している。
「生きた心地がしなかった」というのは2011年7月17日の中日戦(ナゴヤドーム)だ。3点リードの6回1死一、三塁で代打の切り札・前田智徳を送ったところ、中日は左のサイドスロー・小林正人をマウンドへ。これに代打の代打で井生崇光を告げたシーンだ。その瞬間、スタンドから「野村! 前田を代えるなんて何考えてんだ!」などの強烈なヤジが飛んだ。騒然となった。「井生も、行くぞって言ったら、僕ですか、って感じだった」という。
もちろん、この策には理由があった。「前田はコントロールがアバウトな小林を嫌がっていた。コーチから『前田が小林はちょっと無理なんで、チームに迷惑をかけられないと言ってきた』との報告が事前にあったんです。その時は前田に代打を出すなんて俺の気持ちも考えてみろよって話していたんだけど、現実にそのシーンが来たら、前田が無理ですみたいな感じでベンチから出ていった。それを見て代えたんです」。
それでも勇気が必要だったが、結果、井生はレフトへフェンス直撃の二塁打を放った。「ヨッシャーってなったのを覚えている。今でも井生には会うたびにこの話をする。あの時は緊張したやろ、俺も緊張したよ。よく打ったなぁ、お前、ありがとな井生ってね」。これら3つのエピソードが“あえて選んだ同率1位”だが、監督時代にはまだまだ、いろんなことが……。実は感情をコントロールするための“怒りのはけ口”をつくっていたという。(続く)
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)