快投中の“強制降板”にブチ切れ「何で」 後輩の“踏み台”に…屈辱だった同情の賞金

小松辰雄氏に最多勝を取らせるための戦略だった

「そこで俺は言ったの。9勝は9勝でしょって。ベンチで言った。だって急に代われって言われて、何言っているのか、意味がわからなかったからね」。星野監督がそこまでして、鈴木氏を降板させたのは、小松辰雄氏に勝ち星をつけて最多勝のタイトルを取らせるためだった。「それは池田さんも言わないもんね。だって、俺先輩だよ。そんなもん関係ないわってなっちゃうでしょ」。

 5回から鈴木氏をリリーフした小松氏はきっちり好投して15勝目を得た。だが、交代の理由がわかっても、鈴木氏の気持ちは全く収まらなかった。試合後、宿舎に戻っても、まだ憤慨しきりだった。そんなところに関係者を通じて賞金が届いたという。星野監督からで、シーズン前に約束した10勝到達賞金だった。「そんなもん、いらんわ、っては言わなかったけどね」。そのシーズン、鈴木氏は9勝6敗で終わった。

 ちなみに小松氏は10月9日の広島戦(ナゴヤ球場)でも4回3安打無失点の先発・米村明投手をリリーフして16勝目をマーク。10月12日のヤクルト戦(ナゴヤ球場)では4回1安打無失点の先発・近藤真一投手の後に投げて、17勝目をつかんでタイトルを獲得した。「スゲーなって思ったのは辰雄だよ。俺、米村、近藤を踏み台にして、3試合を全部ものにしたからね。それはすごいよ。ちょっと認めたね」と鈴木氏は後輩の技術と精神力を称賛した。

 自身は17年の現役生活で最多勝のタイトルを獲得できなかった。惜しいシーズンは何回かあったが、縁がなかった。「小松の最多勝には協力したけどね」。時を経て、今は笑って話せる。それも忘れられない思い出のひとつとなっている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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