快投中の“強制降板”にブチ切れ「何で」 後輩の“踏み台”に…屈辱だった同情の賞金|球界群像 鈴木孝政#19

中日で活躍した鈴木孝政氏【写真:山口真司】中日で活躍した鈴木孝政氏【写真:山口真司】

鈴木孝政氏は1987年、4回無失点で降板して10勝目を逃した

 交代指令に大憤慨した。元中日投手の鈴木孝政氏(中日OB会長)は現役時代にそんな経験がある。決定権は指揮官にあるとわかっていながらも、その時ばかりは納得できなかったという。プロ15年目の1987年10月6日の阪神戦(甲子園)。監督は星野仙一氏だった。鈴木氏は先発して4回2安打無失点と好投し、2-0でリードしている展開でいきなり降板させられた。勝利投手になれば10勝到達の試合だった。

 その日、鈴木氏は調子が良かったという。「よし、今日はいけると思ったもんね」。味方打線は4回に1点先制、5回にも1点を追加した。10勝チャンス到来だったが、その裏のマウンドに鈴木氏の姿はなかった。

「4回が終わったら、(投手コーチの)池田(英俊)さんが『代わるぞ』って。こっちはびっくりだよ。ええーっだよ。ちょっと待ってください、何でですかって言ったよ」。池田コーチは困った顔をして「監督に聞いてくれ」と言って、その場を去った。

 鈴木氏はシーズン前に星野監督から「10勝したら、賞金を出す」とハッパをかけられていた。「ホントですか」。そう言って、ひとつの励みにしてペナントレースに臨んでいた。その目標まで、あと1勝。目前になったところでの降板指令だったから、当然、気分が悪かった。もっとも、鈴木氏の怒りは星野監督もわかっていた。すぐに池田コーチが戻って来て「監督も球団も10勝を認めるから」と言われたそうだ。

小松辰雄氏に最多勝を取らせるための戦略だった

「そこで俺は言ったの。9勝は9勝でしょって。ベンチで言った。だって急に代われって言われて、何言っているのか、意味がわからなかったからね」。星野監督がそこまでして、鈴木氏を降板させたのは、小松辰雄氏に勝ち星をつけて最多勝のタイトルを取らせるためだった。「それは池田さんも言わないもんね。だって、俺先輩だよ。そんなもん関係ないわってなっちゃうでしょ」。

 5回から鈴木氏をリリーフした小松氏はきっちり好投して15勝目を得た。だが、交代の理由がわかっても、鈴木氏の気持ちは全く収まらなかった。試合後、宿舎に戻っても、まだ憤慨しきりだった。そんなところに関係者を通じて賞金が届いたという。星野監督からで、シーズン前に約束した10勝到達賞金だった。「そんなもん、いらんわ、っては言わなかったけどね」。そのシーズン、鈴木氏は9勝6敗で終わった。

 ちなみに小松氏は10月9日の広島戦(ナゴヤ球場)でも4回3安打無失点の先発・米村明投手をリリーフして16勝目をマーク。10月12日のヤクルト戦(ナゴヤ球場)では4回1安打無失点の先発・近藤真一投手の後に投げて、17勝目をつかんでタイトルを獲得した。「スゲーなって思ったのは辰雄だよ。俺、米村、近藤を踏み台にして、3試合を全部ものにしたからね。それはすごいよ。ちょっと認めたね」と鈴木氏は後輩の技術と精神力を称賛した。

 自身は17年の現役生活で最多勝のタイトルを獲得できなかった。惜しいシーズンは何回かあったが、縁がなかった。「小松の最多勝には協力したけどね」。時を経て、今は笑って話せる。それも忘れられない思い出のひとつとなっている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

球界群像〜鈴木孝政編〜

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