「公立校で甲子園に行けたらかっこいい」 埼玉“最恐の挑戦者”が鍛え抜いた「知」

1990年以来2度目の甲子園を目指す大宮東ナイン【写真:河野正】
1990年以来2度目の甲子園を目指す大宮東ナイン【写真:河野正】

春の県大会4強入りした埼玉の「公立の雄」大宮東

 埼玉の強豪公立校、大宮東はこれまで幾多のプロ選手を輩出し、何度も優勝候補に挙がりながら夏の甲子園出場は1990年の第72回大会だけだ。私学と公立の実力差が開く一方の埼玉にあり、今春ベスト4入りした大宮東が、公立勢ではほぼ四半世紀ぶりとなる代表の座を狙う。

 昨秋の県大会は、3回戦で関東大会に出場した山村学園に2-3でサヨナラ負け。一転してこの春は、狭山ヶ丘や浦和実業、東農大三、大宮南という実績も実力もある4校を撃破して準決勝に進んだ。

 躍進の背景には、4年ぶりに行った春休みの関西遠征でチームが結束したことがある。昨秋、監督に就任した飯野幸一朗は、さらに「例年だと冬場は、体力強化や技術向上を重点項目にしてきたが、今年は心技体知の『知』のところを実践に移し、徹底的に取り組みました」と説明する。

 知とは考える力、戦術能力といった意味で、これを実際のプレーにどう生かすかを繰り返し練習。その成果が出たというのだ。

大宮東の冨士大和(左)と山田恵悟の2年生投手陣【写真:河野正】
大宮東の冨士大和(左)と山田恵悟の2年生投手陣【写真:河野正】

桑野倖成主将「この夏は、打線が援護したい」

 今夏の予選メンバーは20人中、投手を6人も登録した。昨秋から主戦となった冨士大和や山田恵悟、近藤孝栄が2年生で、昨夏も経験した森川晟、投手リーダーの新井昊、遠藤春登が3年生。初戦の2回戦から決勝まで7試合戦う。「単純計算で7試合×9イニングの計63イニングを大切に、総力戦でつないでいくつもり」というのが飯野の戦略だ。

 冨士の兄、隼斗も大宮東の出身で平成国際大4年。昨秋の関甲新学生リーグの関東学園大戦で、ノーヒットノーランを達成した、今年のドラフト候補でもある。ただし高校時代は無名で公式戦での登板はない。

 冨士は「兄が3年の夏は準決勝で山村学園に負けたので、自分も大宮東に入って私学を倒したかった」と勝ち気な一面をのぞかせ、「速球で空振りさせるのが武器で、スライダーとチェンジアップにも切れがある。マウンドに立ったら王様でありたい」と強気な言葉が続く。身長184センチの左腕はこの冬、兄と同じく地道にこつこつと努力を重ね、制球力と技術を磨き体力も付けた。

 チームは昨秋の敗戦後、今の3年生全員に自覚と責任感を促すため、主将や副将の役職をなくした。そんな状況下でも三塁手の桑野倖成は、少しずつだが積極的にリーダーシップを執るようになり、この春から主将に指名された。監督は桑野を、甲子園への思いが人一倍、強い男だと言う。

「個々の力では私立に勝てないけれど、うちは投手を中心にしたチーム力が一番の強み。自分が小学生の時から、夏の埼玉代表はほとんどが花咲徳栄か浦和学院でした。公立校で甲子園に行けたらかっこいいですよね。投手を助けるためにもこの夏は、打線が援護したい」

亡くなった恩師のために「何が何でも甲子園に行きたい」

 優勝した昌平に2-5で敗れた春の準決勝は、8回までに3者凡退が6度もある。9回に4安打を集中して2点を返したが、反撃が遅すぎた。

 好投手も多数いたが、かつての大宮東は看板の強力打線で相手を攻め倒してきた。桑野をはじめ、右翼手・恩田愛斗、一塁手・大高千波の主軸が、どれだけ攻撃陣をリードできるかも優勝へのカギを握る。

 昨春からレギュラーの二塁手・白田友輝にも注目だ。先頭打者らしい選球眼の良さ、好球必打の精神で初球から打ちに出る積極性が特長。「うちは投手陣がいいので、3失点以内なら勝機が見えてきます。9回のうち、2点取れるイニングを2度つくれるようにしたい」と計算する。

 白田にも甲子園への熱き思いがある。日本少年野球連盟・浦和ボーイズ時代のコーチが、大宮東のエースとして夏の甲子園に出場した福井崇だった。進学先に大宮東を勧めてくれたその福井は、昨年11月に急性白血病で亡くなった。「福井さんのために何が何でも甲子園に行きたい」と天国の恩師に誓った。

 新チームは“最恐の挑戦者”というテーマを掲げて始動。相手が怖がり、舌を巻くようなしぶとさ、執念深さ、粘り強さを前面に押し出すのが身上だ。飯野は「どんな戦況でも地に足をつけ、仲間と団結して戦えるチームづくりをしてきた」と32大会ぶりの頂点に思いをはせている。(文中敬称略)

(河野正 / Tadashi Kawano)

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