都市対抗でMVPも「プロはもう考えていない」 剛腕が夢を捨てて迎えた“全盛期”

トヨタ自動車・嘉陽宗一郎【写真:小林靖】
トヨタ自動車・嘉陽宗一郎【写真:小林靖】

都市対抗でMVPに相当する橋戸賞に輝いたトヨタの150キロ右腕・嘉陽

 社会人野球の日本一を決める都市対抗野球が7月に東京ドームで行われ、トヨタ自動車の2016年以来7年ぶり、2回目の優勝で幕を閉じた。その主役となったのが、MVPに相当する橋戸賞に輝いた嘉陽宗一郎投手だ。

 亜大時代から、150キロの剛球でプロのスカウトに注目されていた27歳の嘉陽は、社会人6年目。投球は円熟味を増しているものの、プロ入りについては「もう考えていないです」という。その先に見えた、新たな夢があった。

 嘉陽はヤマハとの決勝戦に先発し、7回を4安打1失点と好投。完投した1回戦と準々決勝に続き、今大会3勝を挙げた。昨秋の日本選手権でもチームを優勝に導いてMVPに輝いており、2大大会で続けての大活躍を見せた。

 7月15日の1回戦がHondaとの「自動車対決」となり、先発した嘉陽は131球を投げ1失点完投。チームも5-1と快勝し、2回戦へコマを進めた。日本一への流れをつくった好投だった。

 内容も伴っていた。140キロ台後半の速球と、カットボールなど落ちる変化球を左右ににきっちり投げ分けての10奪三振。いとも簡単にストライクをとり、打者を自分のペースに巻き込んだ。9回に失点して完封を逃し「1点取られちゃったので、何してるんだと。詰めの甘さが出ちゃいましたね」と笑ったものの、全く危なげなかった。

 強豪のエースとして、プロから声がかかってもおかしくない投球を続けているが「プロはもう、考えていません」と言い切る。トヨタでの3年目に、自分では「力を出し切れた」という実感があった。それでも声がかからなかったことで「これで行けないのなら、しょうがない」と“見切り”をつけたのだという。

トヨタ自動車・嘉陽宗一郎【写真:小林靖】
トヨタ自動車・嘉陽宗一郎【写真:小林靖】

ミスター社会人への道「僕には40歳で投げることは想像できない」

 代わりに口をつくようになったのが「トヨタに恩返ししたい」という言葉だ。その先にはチームの大先輩がいる。社会人球界のエースとして、40歳を迎える今季も現役で投げ続ける佐竹功年投手だ。

「チームの中心として投げさせてもらっているので……。でも、それを10年やっている佐竹さんの域にはまだまだです。僕には40歳で投げることは想像できない。佐竹さんは常にストイックで、何でも野球中心なんです」

 ある球団のスカウトに聞いてみた。嘉陽がここまでプロに呼ばれなかった理由は「大学の時から、肝心な時にいい結果を出せなかったというのはあるかもしれないね」。ただ現在の投球は、年齢を度外視すればプロに誘えるレベルの高さだという。実はプロをあきらめてから、腕を少し下ろした位置で振るようにし、制球も球速も向上した。皮肉なもので、そこから全盛期がやってきたとも言える。

 30歳近くなってからプロ入りし、円熟味を増した投球術で活躍した投手は過去にいる。日本ハムで通算82勝を挙げた武田勝投手はシダックスで5年投げ、28歳になるシーズンになってやっとプロと縁がつながった。現在オリックスで投げる阿部翔太投手は、日本生命から29歳になるシーズンにプロ入り。昨季は日本一にも貢献した。それでも嘉陽の言葉はブレない。「ミスター社会人を目指します」。野球人生のゴールはどういう形になるのだろうか。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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