がんを乗り越え58歳でも現役 女子最年長左腕が噛み締める「硬球を投げる喜び」
本職はトレーナー、30年続ける筋トレ効果
女子硬式野球の普及発展を目的に開催され、「U-15」「高校」「大学・企業・クラブ」の3カテゴリーに分かれて覇権を争うヴィーナスリーグ。同リーグに参戦するグラブチーム「侍」に所属する左腕・千葉奈苗さんは、58歳の女子硬式野球の現役最年長投手だ。いまだに最速85キロの球を投じ、金属バット使用の球足の速い中、プレーを続けている。そのコンディショニング面の秘訣が興味深い。
「職業はスポーツクラブのパーソナルトレーナー。職業柄、運動機会は多く、お客様のトレーニング指導の隙間時間を見つけて、自分のトレーニングもこなします。『全身ヘビーウエートトレーニング』『インナーマッスルトレーニング』など、筋トレを30年以上続けていることが、選手寿命を延ばすことにもつながっていると思います」。162センチ、59キロの筋肉質な体を保っている。
職業柄、自分のポジションである投手の「メカニズム」は特に気になる。対戦チームの投手にも、「トップを作るために、もう少し重心をためたらどうですか?」と、思わず声をかけてしまうほどだ。知識と理論にそれだけ自信があるのだろう。
「食事は何となくバランス面を考えて食べています。偏食はしないけれど、食べる量は若いころと変わりません」。テクニカル的にも、自宅の本棚には野球技術書が何十冊も並んでいて、さらなる高みを目指す姿勢に余念はない。
大病患い人生の大ピンチに遭遇
周囲の反応は、一様に「野球を長くやっていてすごいですね。いつまで続けるんですか?」らしい。しかし、千葉さんに言わせれば「好きなこと」を続けて、気づいたら「58歳」になっていたというのが偽らざる心境であり、事実でしかない。自ら「いつまで」と区切りをつける必要もない。
「だから『生涯現役』です。好きなことは辞められない。区切りをつけて辞められる子のほうがすごいと思います。辞めどきを見失っているだけかもしれませんが(苦笑)」。ただ年齢的に、大怪我や大病を患ったら先がないだろうことは自覚している。
実は、野球人生最大のピンチは昨年だった。卵巣がんだった。発見されたときは緊急を要した。野球をやっていられる状況ではなかった。手術をして4か月くらい戦線を離脱した。だから昨年は登板できなかった。
手術で16センチも腹部を切った。体重は減った。足もか細くなった。「でも、このままでは終わらない!」。病院内で軽いトレーニングを始めた。「野球に復帰」「野球で復活」という目標が、リハビリのモチベーションになった。だから、今季はマウンドに登り、「硬式ボールを投げる幸せを改めてかみしめています」という。
千葉さんは、なぜそこまで野球を愛せるのか。千葉さんにとって「野球」とは何なのか。野球の「どこ」が好きなのか?
「野球の『投げること』が好きなんです。原始時代から人間は獲物を捕るためにモノを投げてきました。だから私は本能的に投げるのが好きなんでしょう。それに、こんなに球が遅い投手が、三振を取れたら快感です。チームスポーツだけど、個人勝負の部分もあります」
現在の女子野球は、軟式と硬式、そして中学野球・高校野球・大学野球・企業チーム・クラブチームと、選択肢がたくさんあることをどう思っているのだろう。「私があと30年、いや40年(笑)、遅く生まれていたらなと正直うらやましく思います。でも、現在注目を浴びつつある女子野球において、『侍』というチームで選手として継続的にプレーできているのをとても幸せに思います」。
「生涯現役」の言葉通り、とことん野球にのめりこんでいく。
(石川大弥 / Hiroya Ishikawa)
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