高価な野球用具を親子で“手作り” 浸透させたいSDGs…育むモノを大切にする「心」
グラブの「再生工房」が親子体験イベントを開催
自分で作ったグラブは、きっと宝物になるだろう。2020年に東京・大田区で誕生し、使えなくなったグラブを買い取り、再生させる取り組みを行っている「野球グローブ再生工房 Re-Birth(リバース)」が、夏休みに親子で実際にグラブ作りの工程に触れる体験イベント「マイグローブを作ろう!(グロつく)」を東京都内の4店舗(蒲田店・二子玉川店・多摩永山店・東村山店)で開催した。
二子玉川店では、グラブマスター(職人)の阿部樹(たつき)さんが、参加した親子4組の隣につき、専用の針金を使ってグラブのウェブ(網)と指先に紐を通す工程をサポート。グラブマスターが行えば10~20分ほどで終わる作業も、新品のグラブは紐を通す穴が小さく固いため、参加者は一苦労。「もう少し強く引っ張って」「ホントに通るの?」といった声が上がる中、1時間半ほどかけて完成させた。
阿部さんも元野球少年。中学時代にはキャッチャーミットの紐を自分で替えたこともある。グラブマスターは1日に何度も紐交換を行うため、指先にマメができたり、変形したりすることもあるという。「子どもたちにはグラブを作る大変さと、手入れしないで紐が切れると、修理するのはこれだけ大変なんだよ、ということを知ってほしいです。試合前に紐が切れた時、自分で直せる知識も大事かなと思います」と訴える。
子どもたちに「SDGs」の大切さを教えるのも大人たちの使命だ。岩谷圭介さんは、小学2年生の息子・翔くんが、モノを大事にする人間に育ってほしいという思いから、イベントに参加した。「私自身も学生時代に使っていたグラブをまだ持っています。大切に愛着を持って使ってもらえたらいいですね」。翔くんは「(グラブ作りは)大変だった。大事に使って活躍したい」と語った。
グラブ作り体験を通じて「モノを大事に使ってくれるのでは」
小学1年生の大木一之臣くんは、グラブ作りの工程を夏休みの自由研究テーマにした。「紐を通した後に、針金を引っ張るところが難しかった。紐を結んだりするのは楽しかったです」と声を弾ませた。
父の倫太郎さんは「自分でグラブを作る経験をして、実際に作っている人がいるということが分かったと思う。モノを大事に使ってくれるのではないかと思います」。リバースの取り組みについては「我々が小さい頃、グラブは使い捨てという感覚があって、再生なんていうことは考えたこともなかった。凄いことだと思います」と棚に並んである再生グラブに目をやった。
物価高の影響はグラブなどの野球用具にも及ぶ。このイベントでも「自分たちが子どもの頃よりも道具代は高くなった」という声が多く聞かれた。金銭面の負担が増し、野球をやりたくても、もしくは続けたくても断念せざるを得ない人も少なくない。
道具を作ってくれる人がいて、お金を払ってくれる人がいる。リバースのイベントを通じて、グラブ一つが自分の手元に届くことに感謝し、道具を大切にする心を持つ子どもが増えていけば、野球界は「持続可能」な、よりよいものになっていく。
(内田勝治 / Katsuharu Uchida)
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