未経験から日本一へ 徐々に高める「楽しさの質」…強豪学童チームの“飽きさせない工夫”
今夏日本一を成し遂げた新家スターズ 大半が野球未経験からスタート
今夏の高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球大会「マクドナルド・トーナメント」で初優勝した大阪・新家スターズは、学年に応じて楽しさの質を変えた指導で選手を育成している。野球未経験者や小学校低学年の指導で重点を置くのは、「飽きさせない練習の工夫」。遊具やボールを使ったウォーミングアップや試合形式の練習など、遊び感覚を大事にしている。
3度目のマクドナルド・トーナメント出場で初めて頂点に立った新家スターズには現在、小学1年生から6年生まで約60人が所属している。そのうち、小学1、2年生は15人ほどで、グラブをつけた経験がなくチームに入る選手も多い。
野球初心者はボールへの恐怖心がある。単調な練習には飽きてしまい、野球の面白さを感じる前にやめてしまう可能性もある。そこで、チームを率いる千代松剛史監督は「小学1、2年生は、とにかく楽しませることを考えています」と、練習に遊びの要素を取り入れている。例えば、ウォーミングアップではグラウンドにあるブランコや鉄棒などを使う。ランニングメニューは形にこだわらず、ボールや縄跳びを使って楽しみながら、選手が自然と走りたくなるメニューを考えている。
野球の技術習得でも、楽しさを最優先にする。試合形式のメニューを中心にして、選手に打ったり守ったりする面白さや相手に勝つ喜びを伝えていく。そして、実戦の中でうまくいかなかったことを練習する。千代松監督が狙いを説明する。
「エラーをして悔しい思いをした選手は、練習でノックを受けたいと積極的に取り組みますし、良い打撃ができた選手は、打球をもっと遠くに飛ばすために自らバットを振ります。なぜ子どもたちが悔しかったのかを見逃さず、普段の練習や指導につなげています。練習の意図に納得しないと、子どもたちは動きません」
野球を通じて社会で生きるための経験をしてもらいたい
千代松監督は、小学校低学年にはシンプルに楽しい雰囲気づくりを心掛けているが、4年生の後半になると、上達する楽しさや試合に勝つ楽しさを感じさせる指導へ徐々にシフトしていく。
「子どもたちも私たち指導者も、全国大会出場を目指しています。楽しむだけでは全国の舞台には立てませんし、日本一は達成できません。5、6年生は楽しみや喜びに加えて、苦労や厳しさも経験します。人生も楽しいことばかりではありません。野球を通じて、社会で生きる上での経験をしてもらいたいという考え方です」
野球の楽しさは1つではない。選手の能力や考え方を無視して指導者の価値観を押し付ければ、子どもたちは野球を嫌いになってやめてしまう。日本一達成の根底には、段階を踏んで「楽しさの質」を変えていく指導がある。
(間淳 / Jun Aida)
球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。
■「First-Pitch」のURLはこちら
https://first-pitch.jp/