怒声罵声から脱却&ノーサイン野球で日本一 大変身の監督が実践した“引き出す”指導
昨夏のマクドナルド杯優勝…中条ブルーインパルスの日本一への“ヒント”
怒鳴る指導からの脱却が日本一へつながった。石川県の小学野球チーム「中条ブルーインパルス」は昨年、高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会「マクドナルド・トーナメント」で初めて頂点に立った。チームの転機となったのは、選手を怒鳴る指導からの転換。そして、選手たち自らが考えて動くノーサイン野球の導入だった。Full-Countでは、小・中学世代で日本一を成し遂げた12人の監督に取材。子どもの成長を促す“ヒント”を探っていく。
2011年からチームを指揮する倉知幸生監督には“師”と仰ぐ存在がいる。全国大会常連で、3度の日本一を達成している滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督。選手の考える力を育て、選手間のサインやアイコンタクトで試合を進める「ノーサイン=脳サイン野球」を掲げる指揮官だ。倉知監督は2016年に初めて滋賀に遠征。そして、その2年後にも訪れると、辻監督が“変身”していたという。
「怒鳴る指導が一切なくなっていました。辻監督から『怒声罵声の指導は変えなければいけない』と言われて、自分の指導を少しずつ変えていきました」
現在50歳の倉知監督は、怒声罵声が当たり前の環境で野球をしてきた。少年野球の指導者になってからも、その考え方は大きく変わらなかった。それは選手への憎しみや怒りではなく、勝つためには相当の厳しさが必要だと考えていたからだった。
ただ、指導者の圧力は選手を委縮させるかもしれないと感じる部分もあった。中条ブルーインパルスは2016、2017年に2年連続でマクドナルド杯に出場している。2017年のチームは、個々の選手のレベルは歴代で最も高かった。しかし、結果は1回戦敗退。倉知監督は「当時は怒鳴っていた頃で、子どもたちが委縮して良いところを出せずに終わってしまいました。全国の舞台で勝ちたい私の気持ちが先に出過ぎたと反省しました」と振り返る。
怒鳴る指導やめて選手から質問…指導者の発見や学びに
この時期に辻監督からの言葉が重なって、倉知監督は怒鳴る指導をやめると決めた。選手を褒めて、笑顔で話しかける。すると、選手との距離が近付き、質問される機会が増えた。倉知監督は「10人いれば10通りの考え方があると気付きました。予想外の話もあって私の勉強になる部分がありました」と話す。
倉知監督の変化は選手の自主性や積極性につながった。辻監督を参考にしてノーサインを取り入れると、選手たちは試合に勝つための戦術や練習を自ら考えるようになった。選手間だけのサインでプレーする精度を練習や練習試合で磨き、昨春に初めて公式戦でも倉知監督がサインを出さない「ノーサイン」で戦った。そして、3度目のマクドナルド杯出場を決め、初優勝も成し遂げた。
「去年は私が一歩引いた形で子どもたちに任せたら、みんな伸び伸びとプレーしていました。全国大会を楽しもうという気持ちが良かったのかもしれません。自分でサインを出したくなる場面もありましたが、子どもたちの考え方を大切にしました」
倉知監督は今月25日から5夜連続で行われる「日本一の指導者サミット」にも参加予定。怒鳴る指導からの脱却と考える力の育成。チームを初の頂点に導いた要因は、選手の力を最大限に引き出す指導だった。