少年野球で「エンジョイベースボールはできない」 真の“楽しさ”へ…示すべき判断基準
アトランタ五輪出場の中村大伸監督が指揮…横浜・平戸イーグルス
楽しさの意味を理解して初めて、エンジョイベースボールが可能になる。激戦の神奈川を勝ち抜いて全国大会出場経験もある、横浜市の少年野球チーム「平戸イーグルス」では、チームに明確なルールを設けている。指導者がプレーの判断基準を示さなければ、小学生は野球の楽しさを感じるのが難しいという考え方が根底にある。
平戸イーグルスは昨年、“小学生の甲子園”と呼ばれる「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」に初出場した。チームを率いる中村大伸監督は指導歴22年。現役時代は「Y校」の愛称で親しまれる横浜商で春夏連続甲子園準優勝を果たした。日体大で大学日本代表に選出され、NTT東京に所属していた1996年にはアトランタ五輪で銀メダルを手にしている。
中村監督がチームづくりで大切にしているのは、ルールの徹底。例えば、1死三塁の攻撃では、必ず三塁走者は内野ゴロで本塁を狙うルールがある。指揮官が重視するのは本塁でアウト、セーフになる結果ではなく、やるべきことを実行するプロセス。選手が判断する明確な基準をつくることで、次のプレーへの意識が芽生え、積極性も養われるという。
「内野ゴロでも点数が取れるという野球の仕組みを、チームで共有する目的があります。打球方向や強さによって判断する方針では小学生は迷ってしまい、スタートが切れなかった言い訳ができてしまいます。やるべきことをやる、積極的にプレーする姿勢が大切だと思っています」
中村監督は他にも、守備ではエラーを気にせず、前に出てゴロを捕るなどチームのルールを決めている。今夏に大きく取り上げられた慶応高のエンジョイベースボールの価値を認めながらも、小学生には一定の方向性を示すことが指導者の役割だと考えている。
「楽しむ」の独り歩きに警鐘…「慶応も厳しい練習したはず」
「少年野球でエンジョイベースボールはできないと思っています。なぜなら、まだ何が楽しさなのかがわからないからです。慶応高校の選手が今の境地に達するまでには、厳しい練習をして、考える力も養ってきたはずです。楽しむという言葉が独り歩きすると、子どもたちが勘違いしてしまいます」
中村監督は、笑って野球する姿勢がエンジョイベースボールではないと指摘する。上達するところに野球の楽しさがあり、判断基準や失敗の原因がわからなければ、せっかく練習しても上達するチャンスを逃してしまうと考えている。
「目標を達成できた時に一番の楽しさがあると思います。その楽しさを感じてもらうためには、子どもたちが迷わずプレーするルールが大切です。『好きにやっていいよ』と言いたい部分もありますが、子どもたちの次のステージを考えると無責任に感じてしまいます」
「私の指導は厳しいです」と中村監督は話す。だが、野球を楽しむことを否定しているわけではない。小学生が楽しさを感じるには、大人が道筋を示す必要性を説いている。
(間淳 / Jun Aida)
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