野球留学経験者に「意外に多い」就職先 “お金”が磨くスキル…周囲も驚く卒業後

花巻東高・佐々木麟太郎の進学で注目が集まる米国野球留学【写真:橋本健吾】
花巻東高・佐々木麟太郎の進学で注目が集まる米国野球留学【写真:橋本健吾】

米国へ野球留学した選手たちの「その後」とは…カウンセラーが回答

 今年のドラフト有力候補でもあった、高校通算140本塁打の佐々木麟太郎内野手(花巻東高)の米国野球留学のニュースに驚かれた人も多いだろう。留学を考えている選手や保護者にとっての懸念は、実は「卒業後」にある場合も多い。夢が叶ってメジャーリーガーにまでなれればいいが、簡単なことではないことは容易に想像がつく。

 では実際に、野球留学をした選手たちは、卒業後どのような道を歩んでいるのだろうか。野球教室・セミナーの開催と共にスポーツ留学を希望する選手たちへのサポートも行う「株式会社GXA」のカウンセラー、平林豊さんに話を聞いた。

 平林さんは自身も留学経験者だ。高校で怪我に苦しんだ経験からスポーツトレーナーを目指し、最先端技術が学べる米国の大学に渡り、卒業後はMLB球団で通訳兼トレーナーなどを歴任した。やはり、野球に関連した職業に就くのが主流なのだろうか。

「通訳になった子もいますし、MLBやNPBの球団職員になった子もいれば、データサイバーメトリクス関連の仕事に就いた子もいます。でも、意外と多いのが、いわゆる大企業への就職です」

 平林さんは、最近も大手金融会社に入社した留学生がいたと話をしてくれた。

「何度も面接があるそうですが、いつも野球留学について聞かれたそうです。今や英会話ができる人材は珍しくありませんが、スポーツに特化した留学は企業にとっても興味深いのでしょう。チームスポーツで培った力やコミュニケーション能力を伴う語学力は、特に海外ビジネス分野で評価されます」

留学経験者は視野が広がり物事を多角的に見られるようになる【写真提供:株式会社GXA】
留学経験者は視野が広がり物事を多角的に見られるようになる【写真提供:株式会社GXA】

スポーツ部で資金集め…鍛えられる“ゼロイチ力”

 卒業生たちの多くが、早くから海外取引や交渉の場で活躍しているという。

「米国の大学では、スポーツ部が資金集めをすることがよくあります。一種のファンドレイザー(資金調達)です。『自分たちはこんなすごいチームだからチケットを購入してほしい』『寄付してもらえたらホームグラウンドの外野フェンスにロゴを掲出しますよ』と営業をするわけです。私も、学生トレーナーとして野球部に帯同していた時、仲が良かったピッチャーとよく一緒に行きましたが、彼らのコミュニケーション能力の高さ、積極性は見事で、次第に自分も同じようにできるようになりました。交渉力が磨かれ、相手との距離を近づける方法が自然と身につきます」

 そうした環境で鍛えられた学生は、フロンティア精神が豊かで、会社に言われたことをこなすだけでなく、自ら動き、成果を出そうとする傾向が強い。

「“ゼロイチ力”がある子が多い印象です。日本での常識が必ずしも海外ではスタンダードでないことも体感するので、大きく視野を広げて物事を多角的に見られるようになる印象はあります」と、平林さんは学生の成長について語った。

 昨今の大企業は、激しく変化する時代を切り拓ける能動的な人材を求めるため、「周囲が驚くような企業に決まる例はよくある」のだそう。また、自ら起業したり、新たなスキルを得てキャリアアップしたり、積極的に自分の人生を築くことに力を注ぐタイプも多いという。

「野球留学したからって、メジャーリーガーになれるわけでもないのにといった意見はよく耳にします。その通りです、プロ野球選手になるのは本当にひと握りなのですから。でも、留学を通じて得た社会性やビジネスに活用できるスキルは、その後の人生において大きな財産となるでしょう」

自身も米国の大学への留学経験がある平林氏【写真提供:株式会社GXA】
自身も米国の大学への留学経験がある平林氏【写真提供:株式会社GXA】

野球を通じて“世界の文化”と“日本の良さ”を知ってほしい

 選手たちには海外に出ることで日本の良さを改めて知ってほしいし、日本の良さを海外でアピールしてほしいと平林さんは願っている。野球を通じて“世界の文化”を知ってほしいとも言う。平林さん自身も、当時は人種差別的なことも感じた経験もあったそうだが、理不尽な環境をどう乗り越えていくか、学んだことも多かったと話す。

「留学生とはいろいろな話をします。私の経験が役に立つこともあるし、私が失敗したことを避けるように助言することもあります。昔の自分に、今の自分ならわかることを語りかけている気持ちになるときがありますね」と、穏やかな笑みを浮かべた平林さんは、陰になり日向になり留学生をサポートしている。

 野球に限らず、音楽、美術、料理……具体的な目標のある留学にはプラスアルファのメリットがある。「大きな夢を抱いて挑戦できるのは、未来ある選手たちの特権です。海外に挑戦してこそ得られる体験がある。将来は自分で築くものです。自分で自分の人生を豊かにできるようになってほしい」と最後にそう語ってくれた。

(大橋礼 / Rei Ohashi)

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