「サインで動くだけではダメ」 周囲も驚く緻密さ…40年超、チーム不変の“思考力”
1979年創設の愛知・守山ボーイズ…「走者二塁の持つ意味が変化」と会長
時代は移り変わっても、変えずに貫いている方針がある。愛知の学童野球チーム・守山ボーイズの山本次雄会長は、指導歴40年を超える。バットの進化で打球の質が上がったことで考え方は変化したものの、頭を使う大切さを伝える指導は変えていない。
気付けば指導者になって40年以上が経っていた。現在、77歳。5年生のチームを指揮し、守山ボーイズ全体を統括する立場でもある山本会長は「もう今年で終わりかな」と笑う。その言葉は本気なのか冗談なのか。グラウンドでは身振り手振り選手に指導したり、他のコーチに指示を出したり、年齢を感じさせない。
守山ボーイズは1979年に創設された。“小学生の甲子園”と呼ばれる「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」に7度出場し、2011年には準優勝。山本会長はコーチや監督を歴任し、3代目の会長を務めている。
長年にわたって全国レベルのチームをつくっている理由は、“変化と不変の融合”にある。学童野球の考え方を大きく変える要因の1つは、バットの進化。ひと昔前と比べて打球は強くなり、遠くに飛ぶようになった。山本会長は「走者二塁の持つ意味が変化しました」と話す。
「以前の学童野球は、走者二塁がスコアリングポジションではありませんでした。守備位置が浅く、1本の安打で二塁走者は生還するのが難しかったですから。でも、今は走者二塁が得点圏になっています。指導者は学び続けて、考え方や指導法を変えていく必要があります」
緻密なサインを使いこなす選手たち…「頭を使うことも野球の楽しさ」
かつての守備位置では、今のバットに対応するのは難しい。山本会長は「小学5年生でも守備位置は大人と同じくらいになりました」と話す。一方で、今も昔も変えていない1つの指導方針がある。
「力が同じなら頭を使う」。守山ボーイズには攻撃でも守備でも細かいサインプレーがある。山本会長の補佐役を務めている小森達也コーチは、チームに加わった当時、その緻密さに驚いたという。
「牽制のサイン1つとっても、複数のパターンがあります。小学生ができるのかなと見ていました。ところが、子どもたちは理解して落とし込んだ後、自分たちでサインを使いこなしていました」
山本会長はサインを教えるが、決して押し付けない。選手たちには「監督のサインで動いているだけでは駄目」と自ら考えて動く大切さを伝えている。小学校低学年では基本的な動きの習得に重点を置き、学年を重ねるにつれて少しずつサインを教えていく。難易度の高いサインプレーは時間をかけて精度を高めているという。
「周りのチームからはサインプレーの種類が多くて驚かれますが、短期間で一気に指導しているわけではありません。全国大会などで他のチームを見て、サインを増やしたり、変えたりしています。選手は頭を使うことにも野球の楽しさを感じていると思います」
山本会長は「選手の自主性がないチームは強くなりません」と断言する。学童野球は近年、球数制限が設けられている。能力が突出した選手が数人いるだけではトーナメントを勝ち上がることは難しい。
時代の変化に対応しながら、選手全体の能力を引き出す指導が全国大会出場には不可欠。そして、指導者には野球以外でも、生きる自主性や考える力の育成が求められている。
(間淳 / Jun Aida)
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