全国V名門に揃った“逸材2枚左腕” 監督47年で「初めて」…才能活かす“こだわり戦法”

中本牧シニアの鈴木陽仁(左)と小林鉄三郎【写真:小林靖、加治屋友輝】
中本牧シニアの鈴木陽仁(左)と小林鉄三郎【写真:小林靖、加治屋友輝】

中本牧シニアの鈴木陽仁&小林鉄三郎を指導…村上林吉監督「故障なく伸びてくれた」

 47年に及ぶ指導歴で初めての経験だった。今夏の「第18回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」で日本一に輝いた中本牧(なかほんもく)リトルシニア(神奈川)で、1978年の創設時から指揮を執る村上林吉監督は、これまでに森野将彦(中日コーチ)や小池正晃(DeNAコーチ)ら、数多くのプロ野球選手を輩出。中学硬式野球における名門チームとして、その地位を築き上げてきた。

 そして、今の3年生にも逸材投手が2人もいる。鈴木陽仁(はると)と小林鉄三郎。左腕コンビの直球の最速は、ともに130キロを超える。村上監督も、2人の非凡な才能に驚きを隠せない。

「これまでも素晴らしい投手はいました。右では大木一哉(創価高-法政大)や丹波慎也(横浜高、17歳で急逝)、左は浦川綾人(横浜高-神奈川大)……。ただ、これだけの左が2枚もそろったのは初めてですね」

 昨年のジャイアンツカップは、一学年上の若杉一惺(横浜高)との左腕3枚看板で臨んだが、準決勝で敗退し3位と悔しい結果に終わった。それだけに、鈴木と小林が最終学年として残る今年のうちに、是が非でも欲しいタイトルだった。

「あの2人は、技術的なことよりもコンディションですよ。戦う前に自分たちの体をしっかりケアして、コンディションをしっかりと作り上げて戦おうとずっと言ってきました。これだけ長い間ゲームで投げていたら、どこかしら故障するものだけど、怪我や故障なく伸びていってくれたのが一番うれしいですね」

決勝戦サヨナラのホームを踏んだ小林【写真:小林靖】
決勝戦サヨナラのホームを踏んだ小林【写真:小林靖】

徹底したスモールベースボールも…本音は「打球が飛ぶのを見ている方が楽しい」

 創設時から一貫する「上から叩きつける」打撃指導も、大事な場面で生かされた。ジャイアンツカップは、昨年大会から中学野球でいち早く低反発バットを導入。鈴木と小林の登板試合はロースコアが見込めるため「1点を取りに行く野球」にこだわった。

「バットを下から上に上げる打撃は、確かに飛距離は出るけれど、野球は1人じゃなくてみんなで点を取るもの。基本は『ドジャースの戦法』(スモールベースボールの礎となる戦い方)ですよ」

 その言葉通り、8月25日に東京ドームで行われた橿原磯城(かしはらしき)リトルシニア(奈良)との決勝戦では、1点への執念が実を結んだ。先発の鈴木が5回2失点、2番手の小林が2回無失点に抑えると、1点を追う最終回の7回裏、小林が三塁手のグラブを弾く同点の内野安打。犠打で2死二塁とした後、9番の廣田健吾(3年)が、遊撃手の左をしぶとく破る中前打を放ち、小林が日本一のホームを踏んだ。

 指揮官の教えを守り、上から強く叩いてゴロを打った結果が、現行大会以前の1995年大会以来となる栄冠を呼び込んだ。

 当時の優勝記念タオルをバッグにしのばせ、大一番の指揮を執った村上監督は、試合後に安堵の表情を浮かべ、こう言った。「選手たちには迷っちゃいけないと言っているけど、こっちが迷ったね。勝たせてあげないといけないという使命がそうさせていると思うんです」。好投手2人を擁しているからこそ、負けられない重圧があったことを吐露した。

 スモールベースボールに徹した今大会だったが、本来は「打球が飛ぶのを見ている方が楽しい。野球の魅力は本塁打」と、長距離ヒッターの出現を期待する。春の日本リトルシニア全国選抜大会と合わせ、チームを2冠に導いた76歳監督が、今度はどんなチームを作り上げて全国の舞台に戻ってくるのか。楽しみは尽きない。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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