甲子園出場は“1未満”の狭き門 数値で具現化…高校野球で活躍できる「逆算生活」

ジャイアンツカップの決勝戦に臨む橿原磯城シニア【写真:小林靖】
ジャイアンツカップの決勝戦に臨む橿原磯城シニア【写真:小林靖】

今夏ジャイアンツ杯準V…G岡本和出身の橿原磯城シニアの「言葉が絵に浮かぶ」指導

 野球を指導する上で、感覚を言語化することは非常に難しい。ただ、数値や図に置き換えることで、頭の中でイメージしやすくなる。巨人で4番を務める岡本和真らを輩出している橿原磯城リトルシニア(奈良)の松本彰太監督は、8月に行われた中学硬式日本一決定戦「第18回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」を戦う選手たちに、こう声をかけた。

「(同大会に出場する)32チームがヨーイドンで始まった時は、優勝する確率は32分の1、東京ドームで決勝戦ができるチームは16分の1や。でも、決勝まで来たら、優勝する確率は2分の1。この確率は、打つか、打ち取られるか、抑えるか、抑えられるか、勝つか負けるかの境地になる。自分の人生は自分で切り開いていこう。もし負けるとするのであれば、自分たちを疑った時。だから信じてやるしかないんだよ」

 松本監督の“金言”に発奮したナインは、2010年に岡本和が成し遂げたベスト4の壁を打ち破り、初めて「2分の1」の決戦となる決勝へと進出した。「男やったら2つに1つを決めてこい」と送り出した大一番は、中本牧シニア(神奈川)に逆転サヨナラ負けを喫し、準優勝に終わったが、春のシニア王者をあと一歩まで追い詰める堂々たる戦いぶりを披露した。

 松本監督は、奈良と石垣島で焼肉店を3店舗経営するオーナーでもある。その言葉は、実にシンプルでわかりやすい。中学野球の日本一を決める大会は注目度も高く、ただでさえ重圧がかかるが、選手たちは勝利するたびに分母が減って“1”へと近づく過程を楽しみながらプレーすることができた。

「ウチは結構数字とかで伝えることが多いですね。自分がしゃべった言葉が“絵”で浮かぶということを極力するようにしています。まだ子どもなので、例えば『このイニングいけよ』と声をかけても、イメージしにくいじゃないですか。それよりも『このイニングに最大瞬間風速を出せよ。観測史上最大やぞ』と言ってあげた方が、子どもたちも『今までのことは忘れて、ここだけでいいんだ』というふうに、切り替えることができます」

ナインに声をかける橿原磯城シニア・松本彰太監督(右端)【写真:加治屋友輝】
ナインに声をかける橿原磯城シニア・松本彰太監督(右端)【写真:加治屋友輝】

わずか「0.7%」の甲子園出場に食い込むには…どうすればいいかを逆算

 橿原磯城は、全国大会に活躍して、高校で甲子園に出場するという目標を持って入部する選手が多数を占める。そのビジョンも、具体的に数値化する。こだわるのは、わずか「0.7%」だ。

「夏の甲子園には49代表校が出場して1チーム20人、980人が甲子園のベンチに入ることができます。高校野球人口は以前調べたら大体14万人ほどなので、(1大会で)0.7%しか甲子園の土を踏むことができない。君たちは0.7%の領域を目指して生きているということをまず認識して、そこに入るための生活をしなさいと、数字でちゃんと理解をさせた上で、指導者、選手、保護者と三位一体で取り組んでいます」

 ただ甲子園を目指して漠然とした中学3年間を送るよりも、1%にも満たない数値に食い込むためには、どうすればいいかを逆算していけば、日々の生活も自ずと変わってくる。日々数字と向き合う松本監督の経営者視点は、中学野球の指導者としても、大いに生かされている。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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