保護者の批判恐れ「追い詰められた」 指導歴36年、“勝利への最短距離”を捨てるワケ
学童軟式野球強豪、滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督は「日本一目指そう」を使わず
チームは日本一を目指している。ただ、「日本一を目指そう」という言葉はほとんど使わなくなった。全国大会連覇の経験がある滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督は、戦略や戦術重視のチームづくりから、個の育成を最優先した方針へと転換。それは、保護者からの声がきっかけだったという。Full-Countでは小学生・中学生世代で全国制覇を成し遂げた監督に取材。小学生軟式野球の強豪を率いる辻監督は、1人1人の選手が成長した先の“日本一”を見据えている。
チームを立ち上げて36年が経った。毎年のように全国の舞台に立っている多賀少年野球クラブの辻監督は、チームの成績を出すための最短距離を知っている。だが、今は、その道を選択していない。
「組織として戦術を磨いた方が、勝つためには手っ取り早いのは間違いありません。日本一になった頃、戦略や戦術を高めた中で、“個の育成”が大事だと気付きました。若い頃と違って、今は『日本一を目指そう』という言葉はあまり使わなくなりました。使うのを我慢しているわけではないんですけどね」
多賀少年野球クラブは、2018年と2019年に「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」を連覇している。辻監督が「個の育成」を優先事項のトップに据えたのは、この頃からだ。方針転換したきっかけは保護者の声だった。直接的な表現ではなかったが、「戦術を磨くのではなく、選手の実力や能力を上げる指導をしてほしい」という要望を感じ取ったという。
「昔は全国大会に行けないと、保護者からすごく批判されて、退団する選手が出てくるのではないかと追い詰められながら戦っていました。その結果、勝たなければいけない思いが強くなって、選手への厳しさが増し、『俺の言うことを聞け』という指導にもなってしまいました。昔と違って、今は仮に全国大会出場を逃しても、否定的な考えが保護者から生まれない運営をしています」
個の成長の先にチームの結果がある「時系列があるだけ」
もちろん、辻監督も選手たちも全国大会や日本一を目指している。実際に、個々の選手の力を伸ばす方針に変えてからも、多賀少年野球クラブは全国大会出場を逃していない。ただ、辻監督は1人1人が成長した先に、チームの結果があるととらえている。
「チームの成績も後になってうれしさを感じますが、順番としては個人の能力が向上する方が幸せですよね。時系列があるだけで、どちらもうれしいです。最初に選手につらい思いをさせて勝たせるのではなく、個々の選手に『上手くなったな』と声をかけながら、チームとして結果を出す喜びを得ることが大切だと思います。そういう順序です」
指導者から選手に向けて「日本一になろう」「全国大会に出よう」といった言葉は必須ではない。個の力が向上すれば、自然とチーム力は上がっていく。辻監督は21日からの「日本一の指導者サミット」に出演予定。個を伸ばし、結果を残す指導の秘訣を明かしてくれる。
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(間淳 / Jun Aida)
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