中学野球の一発勝負は「犠牲で成り立つ構図」 “文化”で決断…名門衝撃移籍の真相
8月にボーイズを脱退…高崎中央ポニーが移籍を果たした“リーグ戦文化”の利点
“衝撃”のリーグ移籍の理由には、子どもたちの将来を見据えた思いと、抱え続けてきた葛藤があった。中学硬式野球の高崎中央ポニー(群馬県高崎市)は2024年夏、ボーイズリーグを脱退しポニーリーグへ移籍した。実績を残してきたチームの脱退は驚きをもって受け止められたが、早くもポニーで戦績を残すとともに、選手の家族にまで及ぶ“相乗効果”も見られるという。決断に至った理由と、中学野球が持つ課題点・可能性を倉俣徹監督に聞いた。
少年野球界に衝撃が走ったのは、今年8月のことだ。「高崎ジャイアンツ」の愛称で知られ、2021年春の全国大会準優勝、2023年の全日本中学野球選手権大会ジャイアンツカップ4強など、ボーイズリーグで実績を残してきた名門の、ポニーリーグへの移籍が判明したのだ。周囲から見ると唐突な出来事にも感じられたが、そこには倉俣監督が長年感じてきた“ジレンマ”が大きな要因としてあったという。
「ボーイズは“トーナメント文化”です。予選大会で決勝まで4、5試合。全国に出場できて1、2試合戦えたとして、高校の進路に向けたアピールを考えると、どうしても起用できる選手や出場機会が限られます。25人が大会に登録して20人がベンチ入りし、実際に試合に出て経験を積めるのは12、13人。残りはベンチワークやランナーコーチ、バット引きで終わってしまう。補欠選手の“犠牲”の上に成り立っている構図で、どうにかならないものかと感じていたんです」
一発勝負のトーナメント戦は当然、勝ち続けなければ真剣勝負の経験は積めないし、レギュラー固定化につながるのも必然だ。倉俣監督は“Bチーム”となる高崎南ボーイズを立ち上げるなど対策を講じたが、トーナメント文化である限りレギュラーと控えとの二極化が進むことには変わりはなかった。
そんな葛藤を抱えていた今年6月、ポニーリーグの関係者に同連盟の理念を聞く機会があった。決定的に異なるのは“リーグ戦文化”であることだ。「1人でも多くの子どもたちに試合経験を積ませ、野球を覚えてもらう」ことを重視し、1大会に複数チームでエントリーできたり、交代後に再び試合に出られるリエントリー制度があったり。大会中の登録選手変更も可能で、敗戦チームにも交流戦が設けられる。
例え失敗しても挽回チャンスがすぐに巡ってくることで、より多くの選手に“成功体験”を積む機会が生まれる。「関東では62チームが、5、6チームずつ12ブロックに分かれてリーグ戦をし、勝ち上がったチームが決勝トーナメントを戦います。これは面白そうだと」。長年抱えてきた課題の解消へ、保護者会とも相談をし、8月のリーグ移籍を決断した。
選手の出場機会増で「おじいちゃん、おばあちゃんも観戦に来るように」
効果は早速現れている。10月の関東連盟秋季大会で、新生・高崎中央ポニーは実力別に3チームを登録し、Aチームが初優勝、Bチームも3位に入り、2025年春の全国大会出場を決めた。Bチームは予選リーグで強豪・江東ライオンズを破る“金星”も挙げた。「まさかBチームも全国に出られるとは。最高のシナリオが描けたし、何よりBチーム、Cチームの選手たちの目の輝きが変わった」と倉俣監督は変化を口にする。
さらに“相乗効果”も実感している。出場選手が限られていたボーイズ時代は、スタンドに応援に来る保護者と顔を出さない保護者とがハッキリ分かれていた。「自分の子が主役になれない」とわかっているから、わざわざ見に来ないのだ。それが、リーグ戦で「試合に必ず出られる」保証があることで、保護者だけでなく「おじいちゃん、おばあちゃんまで観戦に来ることが増えたんです」と笑う。
「野球を通じた家庭内のコミュニケーション作りにもつながっている。両親やきょうだい、さらに祖父母と、家族の中に熱烈なサポーターがいること。たくさんの人が自分を見てくれている、期待されているという経験は、子どもの成長には大事なことなんだと感じました」
逆にデメリットはないのか。指揮官が強いて挙げるのは、試合数が増えることで遠征距離や移動時間が増すこと。ただそれも、「長距離遠征のある高校野球に向けた“トレーニング”と考えれば、アリなこと」とポジティブに捉えている。
メリットが多いならば他の中学硬式連盟でもリーグ戦を、と思うかもしれないが、登録チーム数の規模が違う。ボーイズは全国で小・中学合わせて約720と最大規模、一方でポニーは190チーム余りだ。“小規模”だからこそ試合会場も確保でき、リーグ戦ができるという面もある。
巨人の野球振興部長でもある倉俣監督は、私案として「硬式で試合に出られない選手でチームを作り、軟式球でリーグ戦をやるのもいいのではないか。軟式であれば中学校の校庭も使えるし、硬式が(レベルが)上ということは決してない。軟式出身のプロ野球選手もたくさんいるんですから」とアイデアを語る。
どうすれば、多くの選手たちに野球を通して“ヒーロー体験”を積んでもらえるのか、野球を通して成長を実感してもらえるか……。子どもたちの未来のためにできることは、まだたくさんある。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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