野球チームなのに駅伝優勝? 低学年から「足が速い」…走塁で差をつける“白い円”

新家スターズのジュニアチームの走塁練習【写真:高橋幸司】
新家スターズのジュニアチームの走塁練習【写真:高橋幸司】

“小学生の甲子園”連覇…野球で強くなる大阪・新家スターズの走力向上術とは

 全国連覇のチームが「足が速い」イメージがつくのには、低学年からの取り組みが大きい。昨夏の“小学生の甲子園”「全日本学童野球大会マクドナルド・トーナメント」で史上3チーム目の連覇を果たした強豪・新家スターズ(大阪府泉南市)では、小学4年生以下のジュニアチームの段階から、“楽しむ練習”の中で走塁への意識を植え付けている。野球チームなのに駅伝大会でも勝ててしまう指導内容を取材した。

 グラウンドの真ん中に描かれたのは、直径4メートルほどの白線の円。毎週末午前中に地元の新家小学校で行われる練習中のことだ。低学年の子たちは2グループに分かれると、コーチの合図とともに反時計回りに円上を走り出した。1周ごとにリレーしていく、いわばベースランニングリレーの小型版だ。

「冬場の練習では体を温める意味でもやっています。できるだけ(円の中心に向けて)体を傾けて走らせることがポイント。傾けすぎて体がひっくり返っても、『ようやった』と褒めてあげるくらいでもいい」と、ジュニアチームの監督を務める西口正人さん。塁を回る際のコーナリング技術を身に付ける上でも最適だ。通常のベースランニングでは、一塁まではもも上げ、二塁までは横走り、三塁まではランジ……というようにバリエーションも加えているという。

「新家ではたくさん走らせてくれるからありがたい」。そんな言葉を保護者からよく耳にする。中には、そこに魅力を感じて他チームから移籍してくる親子もいるそうだ。「そんなに走らせている意識はないんですけどね」と西口さんは苦笑するが、それが運動機会減少が叫ばれている現状なのだろう。新家スターズは鬼ごっこをメニューに取り入れるなど、遊びながら・楽しみながら基礎体力づくりをすることが、いずれは野球のプレー向上にも結びつくと考えている。

 地元・泉南市の駅伝大会にも毎年出場しており、陸上チームも数ある中で優勝することも多いそうだ。「駅伝のための練習をしているわけでもないのに、ぶっちぎりで優勝したこともあるんですよ」。野球に生かす目的だが、内容を見れば走力アップのドリルにもなっている。

できるだけ体を傾けながら走るのがポイント【写真:高橋幸司】
できるだけ体を傾けながら走るのがポイント【写真:高橋幸司】

“転がして1点”否定の声に「打球を飛ばせない子でも、走ってセーフになれば喜ぶ」

 低学年のうちから走力をつけ、3、4年生で次第に実戦的な走塁技術に慣れさせてく。上級生の投手に手伝ってもらい、モーションの癖の盗み方も教える。「手の動き、膝の動きなどを観察させてスタートを切る練習をします。4年生でも難しいですが、『5、6年生になればやることだよ』と言って準備をさせておくだけでも違ってきます」と西口さんは説明する。

 小技や足を生かして1死三塁の形を作り、奪った1点を堅守で守り切るのが新家スターズの強み。転がして1点をとること、バントをすることを否定する指導者も中にはいる。しかし、「打球を飛ばせない体の小さい子も、確実に当てて走ってセーフになれば嬉しそうな顔をします。中学・高校で小技を求められた時、小さい時からやっていたかどうかでは違う。細かい技術は学んでおいて損はないはずです」と西口さんは力説する。

 他のチームからは、「新家さんは、なぜ選手みんな足が速いんですか?」と聞かれることがあるというが、「別にみんなが速いわけではない。走塁の技術や考え方を教えていけば、“あのチームは速い”という意識を付けられるということだと思います」と西口さん。ライバルに脅威を与えるイメージ作りは、低学年の段階から始まっている。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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