対戦相手に“PR活動” フォロワー5000超…私学強豪が「外部発信」に注力するワケ

横浜隼人の練習の様子【写真:伊藤賢汰】
横浜隼人の練習の様子【写真:伊藤賢汰】

神奈川の強豪・横浜隼人はSNSや「進路指導」でのアウトプットを重視

 高校野球界にとっても、SNSは今やチームの情報を広く伝えるために、なくてはならないツールとなっている。2009年夏に甲子園出場を果たした横浜隼人(神奈川)も、2年前から写真や動画などをメインに投稿できる「Instagram(インスタグラム)」を開始。練習風景などを撮影した動画をほぼ毎日アップし、フォロワー数は5000を超えた。「すごくクオリティが高いです」と誇らしげに語る、チームを率いて34年目の水谷哲也監督は、高校野球における“アウトプット”の重要性を口にする。

「これからの時代、とにかくいろんなところに出ていかないといけません。私立の野球部は、学校の広報活動の一環とも思っていますので、どんどん外に出てアウトプットしていくことを、選手にわかってもらうようにやっています」

 横浜隼人は現在、2学年で79人。昨年は3年生だけで60人と、神奈川県内でも屈指の部員数を誇る。モットーは「綱引き野球」。全員が力を緩めることなく綱を引けば、人数的に負けることはないということだ。インスタグラム内でも、相田純希先生の担当で部員たちの全力シーンを頻繁に紹介。これまでどこか閉鎖的だった高校野球を、SNSの力で身近なものにしている。

「今やSNSの情報はすごいですよね。僕ら指導者も勉強しなければならないし、勝負しなければいけないところもたくさんあるので、うかうかしていられないですよね」

 選手たちも“PR活動”に積極的だ。練習試合の対戦校には、アカウントのQRコードをプリントした紙を配布。投稿に関しても、DX推進部の教員の指導の下、ルールに則って行う。DM(ダイレクトメッセージ)は受け付けておらず、コメントを気にすることなく野球に集中できるという。

横浜隼人の水谷哲也監督【写真:伊藤賢汰】
横浜隼人の水谷哲也監督【写真:伊藤賢汰】

OBのオリックス・宗は現メジャー投手打ちで進路をプロに変更

 SNSだけでなく、入学時から選手たちに自分の考えをアウトプットする機会を設けている。水谷監督のほか、押部孝哉部長、松井理(おさむ)副部長が中心となって、「どんな選手になりたいか」を説明してもらい、そのためにやるべきことを説明。進路指導も複数回行いながら、将来輝ける場所をともに模索していく。大学入試も総合型選抜で「自己アピール型」などの受験方法があり、自分の考えをしっかりと大人たちに伝えていくことが進路へと繋がる。

 オリックスで活躍するOBの宗佑磨内野手は、入学当初は進学希望も、2年春に1学年上の桐光学園・松井裕樹(パドレス)から2安打を放ったことが自信となった。当時、松井のウイニングショットともいえる直球とスライダーの両方を安打することのできる打者は、神奈川県内にそうはいなかった。

 その後、松井が夏の甲子園で活躍し、楽天にドラフト1位で指名されたことで、自信が確信へと変わり、進路指導ではしっかりと自分の考えを伝えた上でプロ志望へと方針転換。スタンドへファウルを打った際には自然と頭を下げるなど、技術だけではなく人間性も高く評価され、2014年ドラフトでオリックスから2位指名を受けると、2021年からレギュラーとしてリーグ3連覇に大きく貢献した。

神奈川県内でも屈指の部員数を誇る【写真:伊藤賢汰】
神奈川県内でも屈指の部員数を誇る【写真:伊藤賢汰】

「今はまず、選手たちに一生懸命説明させて、とにかくアウトプットをさせてから、じゃあここをこうしよう、というところから始めています。昔みたいに『こうしろ。わかったか』という時代ではありません。今は選手たちにもいろんな形で情報が入ってきますから。こちらもしっかりと勉強した上で、彼らと向き合うようにしています」

 しっかりと自身の考えをアウトプットする能力は、社会に出てからも必ず役に立つ。水谷監督は、固定観念にとらわれず、将来を見据えた指導で部員たちを育成している。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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