バット・グラブ不要で「野球が上達」 控えも急成長…世界的に拡大する“都市型競技”

2009年夏に甲子園初出場の横浜隼人…“手打ち野球”「Baseball5」で全国連覇中の強豪
2009年夏に甲子園初出場を果たした横浜隼人は、神奈川県内の高校野球の強豪校として知られている。一方で、世界的に普及が進んでいる野球型のアーバン(都市型)スポーツでは、日本一の実力を誇っているのをご存じだろうか。その競技とは、男女混合5人制の手打ち野球「Baseball5」(ベースボール5)だ。野球上達にも通じるという、その魅力について取材した。
今年1月に行われた第2回日本選手権ユースの部に出場した「横浜隼人Aggressive(アグレッシブ)」は、第1回大会に続く連覇を果たした。硬式野球部を率いて34年目となる水谷哲也監督が、ベースボール5を始めるに至った経緯を教えてくれた。
「2023年に女子硬式野球部の田村(知佳)監督から『こういう競技があるのですが、出てみませんか』とお声がけいただきました。ベースボール5は男女混合(守備時5人のうち男女各2人以上が出場)なので、お互いが協力しないとできません。そこから練習して、昨年の第1回大会に参加したという形ですね」
メンバーは男女の硬式野球部から有志で集められ、部活動の妨げにならない朝に練習を行う。希望者が10人を超えたため、「アグレッシブ」と「Brave Heart(ブレイブハート)」の2チームを結成。部活動を引退した3年生のみの「NEXUS(ネクサス)65」も合わせた3チームで大会に出場した。
ベースボール5は、1チーム5人が野球と同様に攻守交代を行い、5イニング制で戦う。守備・攻撃ともに素手で行うのが最大の特徴で、塁間13メートル、フィールドも18メートル四方とコンパクトなため、スピーディーな動きが求められる。1試合20~30分ほどで終わるため、片時も気を抜くことができない。水谷監督は、野球に及ぼす効果を説明する。
「捕ってから早く投げないといけないので、野手は球出しやハンドリングがよくなりますね。あと、捕手がいないので、誰がベースカバーに入るかなど、すごく頭を使います」

野球にも好影響「球出しやハンドリングがよくなる」
昨年は、ベースボール5のメンバーだった菅原光輝選手が、3年夏に背番号18でベンチ入りを勝ち取り、「2番・中堅」でスタメン出場するまでに成長した。「彼の守備の反応に助けられた試合もありました。夏に向けて伸びた子です」。
ベースボール5の侍ジャパンユース日本代表に選ばれた選手もいる。今年3月に台湾で行われた「2025 第2回ユース Baseball5 アジアカップ」に、平野将梧選手、星優大選手、渡辺隼人選手の新3年生3人が選出され、初出場初優勝に貢献した。昨秋の神奈川大会でベンチ入りしていたのは渡辺のみ。メンバー外でもベースボール5で日の丸を背負い、世界を相手に戦うことで自信がつき、進路の選択肢も格段に広がるという。
「アグレッシブ」の監督を務める中三川航太郎コーチも、ベースボール5が選手たちに与える効果を力説する。
「緊張感はかなりありますね。その中でプレーできる経験は、野球に生きてくると思っています。特に走塁面では塁間も近いので、次の塁を獲ろうという目が養われます」

まだ競技として産声を上げたばかりで、日本では知名度こそ低いが、今後若い世代を中心に普及していくことが、結果的に野球の裾野拡大に繋がると水谷監督は確信している。
「基本的には危なくないので、小学校の体育の授業でもできます。昔、私たちが手打ち野球やキックベースボールをやったように、ベースボール5を通して野球がもっと面白くなっていく、というようなところを感じてもらいたいですね」
バットもグラブも使わない新たな野球の形は、まだまだ多くの可能性を秘めている。
(内田勝治 / Katsuharu Uchida)
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