初心者に難しい投げ方…悪癖がつかない指導法は? 間違えたくない“動作の順番”

指導者にも選手にも有効な「分習法」…投げ方を5つに分ける教え方
小学生でも中学生でも、野球初心者に投げ方を教えるのは難しい。「構えて、軸足で立って、前足をついて体を捻って……」などと、いきなり順番通りに伝えるのは実は御法度。読売巨人軍の野球振興部長で、中学硬式野球の高崎中央ポニー(群馬)の監督を務める倉俣徹さんは、動作を分割し、順番を工夫することで、「変な癖がつかずに遥かに上達が早くなります」と語る。「分習法」という概念とともに教えてもらった。
ピッチング動作は大きく2つで成り立っている。軸足(右投げなら右足)に溜めた体重をステップした前足(左足)に移動する「体重移動(並進運動)」と、そこから体幹を捻って投げるまでの「回転動作」だ。順番からいえば、まず体重移動から教えたくなるが、「回転動作から覚えていく方が上達への近道です」と倉俣さん。具体的には次の5段階に分けて、2人でキャッチボールを行ったり、ネットに向けて投げたりしていくと良いという。
【1】腕の使い方
正面を向き、腕を肩の高さに掲げて肘を90度に曲げ、「1、2、3」のリズムでクネクネと腕を前後に動かしながら投げる。肩、肘、手首、指の4関節を柔らかく使い、最後に人差し指と中指でボールに回転を加えることと、肘が下がらないようにするのがポイント。
【2】上半身の使い方
グラブを投げる方向に掲げて照準を定め、「1、2、3」のリズムで、グラブを持つ手を畳みながら投げる。グラブを胸の前に引きつけて畳むことで、“テコの原理”で自然に腕が振れ、かつボールに回転がつくことで、失速せずに伸び上がるような球を投げられる。
【3】上半身と下半身の連動
【2】の動きに回転動作を加える。横を向いて足を開いて立ち、同じく「1、2、3」のリズムで体幹を捻って投げる。両足にかける体重バランスは半々にし、体重移動は使わないのがポイント。頭の位置が前に突っ込んだり後ろに逸れたりしないように注意する。
【4】踏み出し体重移動
「1」で両足を閉じて構え、「2」で足を開いてトップの形を作り、「3」で回転動作で投げる。ここでも体重移動は使わない。足を開く際に前足を真っすぐステップする。
【5】3秒バランス
最後に体重移動を加えてトップの位置から投げる。軸足1本で立って構えて「1、2、3」と数え、前足に体重を乗せ替えつつ体幹を回転させてボールを投げ、最後は前足1本で立って「1、2、3」と数える。最初と最後の片足立ちの時にグラつかないこと。投げ終わりにバランスが取れていれば、体重移動と回転動作ができている証拠であり、ピッチャーライナーが来ても対応できる。

中・上級レベルになっても不調に陥った時に立ち返る“原点”にできる
このように、技術を分割して教える方法が「分習法」だ。日本と米国の大学院でスポーツ科学を学び、小中高の保健体育の教員免許も持つ倉俣さんは、東京や群馬、福島、茨城などを回って、初心者指導の多い中学軟式野球部の先生たちにこの教え方を伝えている。そして、分習法は指導者にとっても選手の今後にとっても、大きなメリットがあると説明する。
まず指導者側では、野球経験の少ない教員でも、ポイントを押さえておけば「誰でも同じように指導ができる」こと。また、初心者へも教えやすいことだ。ドリルのメニューも増やせるので、時間で区切って集中力を保ちながらこなせるし、「できるようになった」という成功体験も増やせる。
そして選手側には、分割して教わった動きが、中・上級レベルになって以降、不調に陥った時に立ち返る“原点”にできることだ。「感覚だけで直そうとしても時間がかかる。修正の引き出しを増やせるのが分習法の大きな利点です」と倉俣さんは説明する。
「分習法の概念を覚えておけば、それを“教科書”にして、どんな先生でも同じように初心者指導ができます。あとは、各指導者の経験や現場の実態に応じて伝えていってもらえれば」。教える立場にある大人たちは、ぜひ心に留めておきたいものだ。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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