“やらせる野球”に疑問「大人に頼らないで」 創部2年で全国へ…元燕右腕のノーサイン育成

武蔵川越ブレーブスで監督を務める山本斉氏(中央)【写真:片倉尚文】
武蔵川越ブレーブスで監督を務める山本斉氏(中央)【写真:片倉尚文】

創部2年目でポニー全日本選手権に初出場する「武蔵川越ブレーブス」

 中学硬式野球のポニーリーグに所属する「武蔵川越ブレーブス」が、創部2年目で全国大会に初出場する。指揮を執るのは元ヤクルト投手の山本斉(ひとし)氏。押し付けるのではなく、選手の自主性を重んじた指導で人気を集めている。

 36歳の山本氏は大阪府出身。山形・酒田南高に進学し、2007年高校生ドラフト3巡目でヤクルトに入団した。4年目の2011年にプロ初勝利をマークし、その後は怪我もあり2014年シーズン限りでユニホームを脱いだ。引退後は中学硬式「東京神宮シニア」でコーチや監督を歴任。千葉の名門・銚子商で投手コーチを務めた経験もある。そして、知人の誘いで昨年設立された武蔵川越ブレーブスの監督に就任。創部2年目で、今月18日に開幕する「マルハングループインビテーション 大倉カップ 第51回全日本選手権大会」出場を導いた。

 選手の自主性を尊重し、自ら考えさせるのが山本氏の指導方針。「少年野球って大人が主役になりがちですけど、やるのは選手なので。子どもたちにどんな考えを持たせて、どんな思考で野球に取り組ませるかが一番大事だと思います」と語る。かつては選手に「がっつり教えながらやっていた」というが、「育成はうまくできているのか?」と自身の指導に疑問が湧いた。「自分の野球人生を振り返っても、教えてもらったことは本質ではないと気付きました」と振り返る。

 武蔵川越の監督就任当初、選手には「大人に頼らないで自分たちで考えてほしい。自分が何をすればいいのか常に考えて行動してほしい」と伝え、練習試合だけでなく公式戦でもノーサイン野球を貫いた。指示もほとんど出さなかったという。

「TAKARAベースボールアカデミー」で塾長も務める【写真:片倉尚文】
「TAKARAベースボールアカデミー」で塾長も務める【写真:片倉尚文】

指揮官は元ヤクルト右腕…求める「自分から取り組む感性」

 当初は戸惑っていた選手も、何をすべきか徐々に理解し始めた。「そこから一気に勝てるようになってきました」。以降はサインも加え、チームとしての幅は広がっていった。「こういう作戦を取るだろうなと、サインを出す前に選手が分かってくれるようになりました。余裕を持ってプレーできているので、パフォーマンスも上がりやすいですよね」と手応えを口にする。

 練習は土日祝日。山本氏は埼玉・川越市の野球塾「TAKARAベースボールアカデミー」で塾長を務めており、塾が所有する室内練習場での平日練習も可能だが、あえて行わないという。「やらせるのは本質ではないので。やらせるのではなく、自分から取り組む感性を持たせないといけないと思います。押し付けではやらせません」。

 部員は順調に増えて34人。あくまでも選手の将来を見据えた指導が最優先だが、「僕の中では5年後。全国の頂点に立てるくらいのレベルに上げていきたい」と思い描く。その第一歩となる今回の全日本選手権。気鋭のチームは、どんな戦いを見せるだろうか。

(片倉尚文 / Naofumi Katakura)

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