20年続く「負けても記憶に残る」学童大会 野球人口減少時代に…親子に愛される“仕掛け”

今では100チームが参加する大会となったノーブルホームカップ【写真提供:ノーブルホールディングス】
今では100チームが参加する大会となったノーブルホームカップ【写真提供:ノーブルホールディングス】

学童野球を“お祭り”へ…茨城の「ノーブルホームカップ」が親子の心に刻む特別な記憶

 野球人口の減少が叫ばれる中、茨城県で20年以上続く学童野球大会が、他とは一線を画す取り組みで注目を集めている。それが「ノーブルホームカップ」だ。今年も8月2、3日に決勝トーナメントが開催される。16チームでスタートした大会は今では100チームが参加する一大イベントに。単なる野球の勝負ではなく、子どもたちと保護者にとって一生の思い出となる“お祭り”として企画されている。

 多くの野球大会が勝敗にこだわる中、「記憶に残る大会を作る」という明確な理念がある。初戦で負けたチームも必ず2日目に参加し、全員が最後まで楽しめる仕組みを作り上げた。よくある3位決定戦を廃止し、その時間に、個人の能力を競うチャレンジコンテスト(ベースランニング、遠投、スピードガン)を導入。お祭りのような雰囲気の中で子どもも大人も一緒に楽しめる時間を作り出した。

 決勝トーナメントの2日間にプロのスチールカメラマン、TVカメラマンがグラウンド内で選手たちを撮影し、試合中の真剣な表情、チームメートとの笑顔、悔し涙まで、すべてを記録する。これらは参加者全員が無料でダウンロードできる。大手企業から地域の中小企業まで幅広いスポンサー陣も理念に共感。地域活性化というコンセプトで協力を求めた結果、長期パートナーシップを築いている。

 この姿勢が企業からの信頼を得て、参加者からも「出たい大会」として愛され続ける理由となっている。2005年の第1回大会は地元水戸の16チームでスタートした。翌年は20チーム、そして3回目に茨城新聞との連携で県全体に募集をかけると55チームが参加。5年目には103チームを数える一大イベントに成長した。

チャレンジコンテストで表彰される選手たち【写真提供:ノーブルホールディングス】
チャレンジコンテストで表彰される選手たち【写真提供:ノーブルホールディングス】

チャレンジコンテスト、ホームラン競争で全員がヒーロー

 ノーブルホームカップでは、子どもの試合だけでなく保護者も主役になれる。過去には「親対親の試合」を開催し、お父さんたちが球場に立った。子どもたちはスタンドから「パパ頑張れ!」と声援を送り、普段とは逆の立場で家族の絆を深めた。

 さらに、ホームラン競争には保護者も参加可能。「決勝トーナメント進出が決まった瞬間、バッティングセンターに通い始めるお父さんもいました」という微笑ましいエピソードも。プロの実況と解説付きで、まるでプロ野球のような演出が家族の特別な思い出を作る。中には甲子園で活躍した元球児の姿もあった。

 運営責任者であるノーブルホールディングスの大竹祐次さんは「お祭りみたいな大会なんです。親御さんが楽しんでくれていますし、親御さんが楽しむと、当然、子どもたちも応援します」と毎年、やりがいを持って現場を仕切る。試合で活躍できなかった子どもたちにもスポットライトが当たる。スピードガン測定、遠投、ベースランニングの3種目からなる「チャレンジコンテスト」では、各チーム3人ずつが参加し、それぞれの得意分野で力を発揮できる。

 120キロの豪速球を投げる子もいれば、俊足を活かしてベースランニングで1位を取る子もいる。全ての子どもに活躍の場があり、その様子も写真に残される。優勝者にはトロフィーが贈られ、ホームページでも紹介される。

 大会の真価は、参加した子どもたちのその後に表れている。1回大会の参加者は現在30代となり、住宅購入の際にノーブルホームを選ぶ人や、同社に就職する人も。さらに、当時の参加者が今度は保護者や指導者として大会に戻ってくる循環も生まれている。20年間の地道な地域貢献が、今になって企業価値として花開いている。

 大会運営は全て自社社員が担当し、社員研修・社員交流も兼ねている。子どもたちや保護者から直接感謝の言葉をもらう経験が、社員の成長と会社への誇りを育んでいる。

 元高校野球の監督、教員という経歴を持つノーブルホールディングス・福井英治社長はこの活動について「続けること」の大切さを説く。「これからも多くの子どもたちが野球を通じて成長し、人としても大きな夢や目標を持って羽ばたいていけるよう、継続して支えていきたいと考えています」と思いを語る。

 ノーブルホームカップは、野球という競技を通じて地域全体で子どもたちを育てる取り組みだ。勝敗を超えた価値を提供し続けることで、参加者にとって一生の宝物となる記憶を作り出している。これからも茨城の野球少年たちの心に、特別な夏の思い出を刻み続けていくだろう。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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