韓国で猛暑、重いバット…全国大会直前の異例遠征 中学生にあえて“洗礼”「温室育ちにしない」

青森山田シニアが韓国開催の国際大会に日本チームで唯一参加
異国の地で「いつも通り」の野球をするのは簡単なことではない。中学硬式野球の強豪「青森山田リトルシニア」は、7月中旬に韓国・華城市で初開催された中学生世代の国際大会「京畿道アジアカップ野球大会(U15)」に、日本のチームでは唯一参加した。8月1日にリトルシニア日本選手権初戦を控える中での1週間の海外遠征は異例と言える。中條純監督にその狙いを聞いた。
「全国大会では、どんな時でも、どんな場所でも自分の力を発揮する能力が必要になる。いつもと環境や気候が違う異国の地で野球をやるのは、その能力をつけるのに最適な機会なのではないかと考えました」。今大会には韓国の9チームに加え、日本、中国、台湾から各1チームずつが参加。日本の旅行会社から参加依頼を受けた中條監督はすぐに快諾した。
青森山田シニアは予選グループ1勝2敗ながらワイルドカード枠で決勝トーナメントに進出。しかし東山中(韓国)との準々決勝で、タイブレークの激戦の末に9-10で敗れた。35度を超える猛暑の中、十分に「力を発揮する」ことはできないまま大会を終えた。
主将の掛川隼外野手(3年)は予選グループで連敗スタートを喫した直後、「山田の野球ができていない。いつもはできていることができない場面が多い」と漏らした。掛川自身も2戦目の中央中(韓国)戦に「1番・中堅」でスタメン出場するも4打数無安打。気候だけでなく、大会で使用されたヘッドの重いバットへの対応にも苦労していた。

中條純監督が語る本音「温室育ちのような状況にはしたくない」
海外遠征は、青森山田シニアが中学校単位で運営するチームであることに加え、体調や食事の管理など遠征時のノウハウを備えているからこそ実現した。4番を打つ正遊撃手の新妻大和内野手が「(青森山田シニアの)環境はめちゃくちゃ良いです」と断言するのもうなずける。
下宿を営む八戸征人コーチ、寮生の指導を行う山崎鷹亮コーチ、今年から新たに加わった浅井宏太コーチら指導陣に支えられながら、細部までこだわる環境作りが進んでいる。その一方で、中條監督は「どんな環境でも力を出せるようにしないといけないので、温室育ちのような状況にはしたくない」と力を込める。中学野球である以上、選手たちには高校や大学、さらにはプロや社会人といった先のステージが待っている。そのステージに中学と同様の環境が用意されているとは限らない。
「どんな環境でも力を出せる選手が一番良い選手。『中学の時はこうだった』と言って環境のせいにせず、置かれた環境を自分が活躍できる“環境”に変えなければならない。環境を良くすることはいくらでもできますが、それが当たり前でないことは伝えるようにしています」。今大会中は掛川のほかにも思い通りにいかず顔をしかめる選手の姿が目立ったが、「いつも通り」の難しさを痛感できただけでも意味のある時間だったと言えるだろう。
2021、2022年に日本選手権で連覇して以降は日本一から遠ざかっている。8月の大一番に向け、掛川は「今大会に来られなかった選手も含めてチーム一丸となって臨みたい」、新妻は「日本一の目標を持って入学したけど、まだ叶えられていない。自分たちの代でなんとしても日本一になって、最後に笑って終わりたい」と意気込む。悔しさを味わった海外遠征を経てどんな変化がもたらされるのか、注目だ。
(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)
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