V3監督提言、“優勝シーン”の予行練習「普段からやろう」 まず親が見本…照れたら「やり直し」

優勝の予行練習をする城東ベースボールクラブナイン【写真:宮脇広久】
優勝の予行練習をする城東ベースボールクラブナイン【写真:宮脇広久】

多賀少年野球クラブ・辻監督提言、“優勝決定シーン練習”に込めた深い狙い

 決勝戦でリードを奪い、最終回の守備に就く。そして最後の打者を打ち取った瞬間、グラウンド上のナインも、ベンチに控えていた選手たちもマウンドへ殺到。抱き合いながら歓喜を分かち合う……。そんな感動的なクライマックスシーンを、「普段から予行練習でやっておこう」と提言する指導者がいる。指導歴37年、滋賀・多賀少年野球クラブを率いて全国大会優勝3回など輝かしい実績を誇る、辻正人監督だ。

 辻監督は7月20日、はるばる東京都江戸川区を訪れ、同区の少年野球チーム、城東ベースボールクラブの未就学児から小3までの初心者を対象に出張指導を行った。同クラブは森糸法文監督が辻監督の思考、練習法に共感して師事し、2021年に立ち上げた経緯がある。

 優勝決定シーンの予行練習は、最終回の守備で2死の設定。9人が守備に就き、コーチが転がしたゴロを三塁手が捕り、送球が一塁手のミットに収まった瞬間、全選手が言葉にならない歓声を上げながらマウンドに集まる。辻監督は「“大会で優勝して、あれをやりたい”というモチベーションが生まれます」とうなずく。

 そして、この練習のミソは、子どもたちがやる前に、見学に来ている保護者を集めて“見本”をやらせることにある。大人たちが恥ずかしがって、声が小さかったり、本当に喜んでいるように見えなかったりした時には、容赦なく「やり直し」を命じるという。

「いまの子どもは、あんなことをしていいのか、こんなことをして大丈夫かと、慎重に天秤にかける傾向があります。大人が先にやって見せることで、子どものリミッターが解除されるのです」と辻監督は説明する。

多賀少年野球クラブの辻正人監督【写真:宮脇広久】
多賀少年野球クラブの辻正人監督【写真:宮脇広久】

「関東の親御さんは自分をネタにして笑わせることが苦手かも」

 全国のチームから頼まれ、指導に出向くことも多い辻監督は「僕が生まれ育った関西に比べると、関東の親御さんたちは恥ずかしがる傾向が強いですね」と指摘。「文化の違いでしょうね。われわれ関西の人間はだいたい、自分をネタにして笑わせることが大好きですが、関東の方はそれが苦手なようです」と苦笑する。

「子どもに『何事も積極的にやれ』とおっしゃる保護者は多いですが、言葉だけで子どもを動かすことはできません」と辻監督。

「たとえば遊園地や動物園に行って、イベントで『〇〇をやってみたい人?』『トイプードルと一緒に縄跳びをやってみたい人?』などと問いかけられた時には、保護者の方々は積極的に手を上げてほしい」と勧める。「そうすれば、子どもも学校で『学級委員長をやりたい人?』と問いかけられた時、恥ずかしがらずに手を上げるようになります」と熱を込めた。

 この日指導した城東ベースボールクラブは、「子どもにも保護者にもストレスを与えない」という方針で、“お茶当番”など保護者のお手伝い制度を撤廃し、保護者会も設けていない。

 それでも辻監督は「保護者の方々には可能な範囲で練習を見に来ていただきたいですし、普段の生活で『今日は何を教えてもらったか、覚えているか?』と会話をしてほしい。家庭で復習と確認があると、人より早く上のレベルに行けます」と強調。「僕は子どもたちに話す時も、周りのお父さん、お母さんがハードディスクだと思って話しています。子どもたちは放っておけば1週間で忘れますが、保護者の方々が覚えていてくれれば助かります」と語った。

 野球を通して、保護者ぐるみの子育てを提唱する辻監督。優勝決定シーンの予行練習には、そのエッセンスが詰まっている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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