遊撃も外野もクビ「守るところなくて」 悪癖→武器に転換…屈指の“サイド剛腕”誕生の瞬間

ロッテ・横山陸人が語る上一色中軟式野球部と故・西尾弘幸監督との思い出
プロで活躍する礎となっているのは、中学軟式野球で受けた“熱血指導”だ。昨オフのプレミア12で日本代表に選出されるなど、球界屈指の中継ぎ投手に成長したロッテの横山陸人投手。本格的に投手に挑戦したのは10年前、都内にある江戸川区立上一色中学校2年生の時で、公立の同中野球部を全国大会の常連に鍛え上げ、今年4月に死去した元監督・西尾弘幸氏の指導によるものだった。入団6年目の今季も勝利の方程式の一角を担い、躍動している右腕の“原点”を語ってもらった。
小3時に同区の「南篠崎ランチャーズ」で軟式野球を始めた横山は、当時から「肩は強かった」という。ポジションは捕手か外野手だった。小6の時、友人から誘われて上一色中の体験練習に参加。「先輩たちの雰囲気も良かったですし、西尾先生を見て『凄く熱い先生だな』と感じました。こういうところで野球をやってみたいなと思って、親に相談して決めました」。バスで片道45〜50分の同中に進学し、野球部に入部した。
入部直後は外野手。2年時の2015年夏、新チームが発足した時に「いろんなポジションを試そう」となり、外野以外でも遊撃でノックを受けた。だが、遊撃は「5分で代えられました」。送球フォームに問題があったようだ。「無意識に横から投げてしまうので、シュート回転していたんです。それてしまったり、バウンドが不規則になったりして、外野からだとホームに届くのが少し遅くなる。遊撃から投げると一塁も捕りづらいんです」。
遊撃も外野も「ほぼクビになったようなもの」と苦笑いで回顧する。「守るところがなくて、最後の最後に『ピッチャーやってみようか』ってなって。『意外といい球を投げるじゃん』みたいな感じになりました」。西尾監督の導きで“投手・横山陸人”が誕生した瞬間である。「自分が一番投げやすい投げ方だった」という横手投げに近いスリークオーターで、「結構強い球を投げることができていました」。新たな役割を見つけ、エースとなっていった。
当時は器用なタイプではなく、変化球もほとんど投げられなかった。そこで西尾監督から教わったのがツーシームだ。「投げる時に『手首を立てて』と教えていただき、それだけ練習していましたね。中学の時に投げていたのは真っすぐとツーシームだけでした」。ただ、投球練習は「何球か投げて終わり。フリー打撃で投げたことはありましたけど」とそれほど多くなく「ひたすらバッティングをしていました」という。

ひたすら繰り返した打撃練習…中3で奥川と投げ合い全国準優勝
西尾監督が掲げていたのは「攻撃野球」。狭い校庭でのノックは他の部活動がない日の週1回だけで、午後4時からの約2時間半の練習のほとんどを打撃練習に費やした。校舎側に防球ネットやフェンスをケージのように張り巡らせ、ティー打撃やマシン打撃、投手相手の打撃練習を繰り返す日々。「移動式のネットも40枚ぐらいあったし、公立の中学校ではなかなかない環境だと思います。とにかくバットを振っていましたね。ネットに向かって、みんなひたすら打っている感じでした」と思い起こした。
体幹トレーニングを取り入れた冬場の練習もかなりハードだった。「プランクを2分とか。今、考えたら中学生じゃありえない。プロ野球選手でもあまりいないんじゃないですか」。サッカー日本代表の長友佑都が取り入れていることで当時話題となっており、「常に新しいものを取り入れて、僕らの可能性を広げていってくれたのが西尾先生だった。我慢強さもつきましたね」と感謝する。
西尾監督の熱血指導で強く覚えていることがある。「試合でミスしても落ち込むんじゃなくて『取り返して、やり返してこい!』という感じでした。バントをファウルしたり、サインミスしたら怒られるんですけど『取り返してこい!』『打ってこい!』と常に言われていました」。失敗を引きずらずに、次の機会に取り返す。プロになった今、24歳右腕はその姿勢の大切さがより理解できる。
1学年上の先輩は2015年の全国中学校体育大会(全中)で3位に。「先輩たちを超えたい。優勝しかない」。明確な目標を立てて臨んだ2016年の全中では決勝に進出して“先輩超え”を果たした。だが、決勝では奥川恭伸投手(ヤクルト)、山瀬慎之助捕手(巨人)を擁する、かほく市立宇ノ気中学校(石川)に敗戦。「準優勝なので先輩たちを超えたんですけど、負けてメチャクチャ悔しかったですね」。満足できなかった思い出として心に残っている。マウンドでの負けん気の強さは、中学時代に育まれたのかもしれない。
(尾辻剛 / Go Otsuji)
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