グラウンドが使えないのは「運命」 過酷練習で全国準V…旭川の“近所の子たち”が見せた躍進

5回から登板した旭川大雪ボーイズ・樽井新太【写真:小林靖】
5回から登板した旭川大雪ボーイズ・樽井新太【写真:小林靖】

旭川大雪ボーイズ、北海道勢10年ぶり2度目の準優勝

 冬場の地道で厳しい鍛錬が快進撃の一因だった。中学硬式野球の日本一を決める「第19回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」は17日、東京ドームで決勝戦が行われ、旭川大雪ボーイズ(北海道)は世田谷西リトルシニア(東京)に0-5で敗戦。北の大地に初の優勝を届けることはできなかった。それでも9年ぶり3度目の出場で強豪チームを次々と撃破。2015年の小樽リトルシニア以来、北海道勢10年ぶり2度目となる決勝進出の旋風を巻き起こし、大きな自信を手に入れた。

 試合後の一塁側ベンチで泣きじゃくるナイン。西大條敏志監督は「そんなに泣かなくていいんだ。悲しいけどな。今日は相手のピッチャーが上だっただけだぞ」とねぎらうように声をかけた。安打数は世田谷西の6本に対して4本。スコアほど差はなかった。3回に許した先制の2点は2四球などでピンチを招いて失策で献上。3回の3失点も四球と失策が絡んだもので、攻略された感覚はなかったのだ。

 もちろん、失策は言い訳にしない。西大條監督は「エラーが出るのはしょうがない。返す力があれば、もっと戦えました。残念ですけど、きょうは完敗ですね。相手のピッチャーが素晴らしかった」と緩急を駆使した相手左腕・福田遊大投手(3年)に脱帽。「最後まで緩い球を捉えることができませんでした」と素直に敗戦を受け入れた。

 その一方で「旭川の選手が中心で、近所の子が集まって戦っているチーム。本当に精いっぱいやっての結果なので、私としては誇らしい成績だったと思っています」とナインの成長に目を細める。「選手は『まだやれる』という思いがあったから、泣いていますけど。いいんじゃないですか。3年生は悔しさを持って高校に行って、甲子園を狙ってやってくれると思います」と今後の活躍に期待を寄せた。

 兵庫伊丹ヤングとの準々決勝はサヨナラ勝ち、多摩川ボーイズ(東京)との準決勝では3点差を逆転するなど、たくましさを示した今大会。今月上旬、大阪で行われたボーイズリーグのエイジェックカップ日本少年野球選手権では気温38度の猛暑で体調を崩す選手が複数いたが、旭川に一度戻って立て直し。「疲れを抜いて今回は体が動くようになっていました。大阪の経験が生きましたね。本当に凄いなと思いますし、大きな自信になったでしょう」と奮闘を称えた。

準優勝に輝いた旭川大雪ボーイズ【写真:小林靖】
準優勝に輝いた旭川大雪ボーイズ【写真:小林靖】

2年生右腕・神元「来年は140キロを超える球を投げて優勝したい」

 雪国のハンデを感じさせない、心身の強さを培ったのは冬場の練習だ。11月からの5か月間は、降り積もる雪でグラウンドが使えない。室内練習場代わりに倉庫を借りるなど、さまざまな施設を利用して週6日練習。11、12月は球に触れずジャンプ、短距離ダッシュを中心に瞬発力を徹底的に鍛えてきた。

 年明けからは球を使った練習も開始するが、瞬発系の練習は継続。最も多く取り入れているのが20メートル前後のショートダッシュだという。主将の山脇瑛翔内野手(3年)は「50往復ぐらいします。下半身が強くなりますし、精神的にも鍛えられました。冬に頑張ってやってきたのがいい結果につながりました」と振り返った。グラウンドが使えないのは言い訳にしない。指揮官が「北海道の人間は、運命なので仕方がないですよ。できないというんだったらチャレンジする必要ない」というように、冬場に土台を築いて全国の舞台で粘り強い戦いを繰り広げた。

 北海道勢の初優勝は来年以降に持ち越しとなったが、もうすぐそこまで見えてきている。山脇は「ベスト4の目標は超えることができました。来年、僕たちの記録を超えてもらいたい」と後輩に悲願を託した。先発して2回2/3を2失点(自責点0)だった神元朔投手は2年生。「打たれたヒットは2本だけ。コントロールを良くして、来年はこの舞台で140キロを超える球を投げて優勝したい」と早くも雪辱を期す。176センチの身長も、最速134キロの直球も、まだまだ伸びそうな雰囲気が十分にある。再び迎える過酷な冬を超え、さらにたくましさを増して戻ってくるだろう。

※8月20日18時40分、写真の選手名に誤りがあり修正しました。お詫びして訂正いたします。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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