小学生に“敬語の強制”は必要ない 全国準Vチーム実践…綺麗ごとでは生まれない人間形成

決勝で本塁打を放った伊勢田ファイターズ・夏山淳【写真:小池義弘】
決勝で本塁打を放った伊勢田ファイターズ・夏山淳【写真:小池義弘】

全日本学童大会準優勝、伊勢田ファイターズ・幸智之監督「無理に縛る必要はない」

「選手たちに敬語で話せと言ったことは一度もありません」。8月11~18日に新潟県で開催された“小学生の甲子園”「高円宮賜杯 第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」で準優勝に輝いた伊勢田ファイターズ(京都)には、「タメ口OK」という驚きのルールがある。幸智之監督にその真意を聞いた。

「小学生に『敬語で話せ』と言うと、敬語を話すことに頭のキャパを取られて喋りたいことを喋れなくなってしまう。中学生や高校生がタメ口を使うのはNGですが、自分の言いたいことを言う表現力を身につける段階の小学生を、無理に縛る必要はないと考えています」

 幸監督は育成・指導方針の最優先事項として「人間形成」を挙げる。人間形成をする上では礼儀を重んじるのはもちろんだが、小学生という年代の精神的な発達段階を鑑みて、あえて「縛り」を解いている。実際、指導者と選手が本音で話をすることができており、また選手たちは「空気を読んで」グラウンドでは自然と敬語を使うという。

 幸監督は「きれい事」や「うわべだけのほめ言葉」も避けるよう心がけている。

 例えば、挨拶や感謝の言葉を口うるさく求めることはしない。試合で負けた後に大きな声で挨拶をしたり、保護者などに泣きながら感謝の言葉を送ったりするのは美しい光景に見えるが、幸監督は「言葉だけになっては意味がない」と指摘する。野球と向き合う思いや感謝の気持ちを示すために必要なのは、一生懸命なプレーと日頃の行動。ただ機械的に口にするのではなく、その本質を考えることが大切だと伝えている。

「気休めのようなことを言ったり、うわべだけの言葉で綺麗にまとめたりしても人間形成はできない。正直に、包み隠さず、時には厳しくダメなことはダメだと言う。そうやって指導者が子どもを1人の人間と捉えて本気で接すれば、子どもも本気になるんです」

伊勢田ファイターズ・幸智之監督【写真:小池義弘】
伊勢田ファイターズ・幸智之監督【写真:小池義弘】

劣勢の中で2者連続本塁打「彼らの成長を評価したい」

 今大会はチームとして2度目の出場で初勝利を挙げ、勢いそのままに決勝まで勝ち進んだ。決勝は強豪・長曽根ストロングス(大阪)に敗戦。それでも、2回までに7失点を喫する劣勢の中、藤本理暉選手(6年)、夏山淳選手(同)が2者連続本塁打を放つなど食らいついた。

「決勝の試合中、浮き足立っていた選手たちに『ワンプレーに対して全力でやる俺らの野球を思い出そう』と声をかけました。口で言うのは簡単だけど実際にやり切るのは難しい。彼らはそれを体現してくれました。苦しい展開から持ち直せるようになったのは人間力がついてきている証拠なので、そういう意味で彼らの成長を評価したいです」。幸監督の“本気の人間形成”の行く末に注目だ。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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