20年で6000超が消滅…激減する学童野球チームの実態 増える「大会に出ない」選択肢

全日本学童予選東京都大会で優勝を果たした不動パイレーツ【写真:フィールドフォース提供】
全日本学童予選東京都大会で優勝を果たした不動パイレーツ【写真:フィールドフォース提供】

2000年代初頭の学童チーム数は約1.5万→2024年は8680にまで減った

 野球の競技人口減少が叫ばれて久しい。このテーマで語る時、よく引き合いに出されるのが全日本軟式野球連盟(JSBB)が発表している「学童(小学生軟式)カテゴリー」の登録チーム数。ピラミッドの底辺にあたる部分だ。2000年代初頭に約1万5000ともいわれた学童チーム数は2024年度、JSBBのホームページによると「8680」になっている。このチーム数について考えてみたい。

 筆者は新聞記者として、東京を中心とした関東圏の学童野球大会を長く取材してきた。その中で、印象的だった出来事がある。

 2008年秋のことだ。5年生以下のチームで東京一を競う新人戦の東京都大会で、東村山市の「東村山ドリーム」が優勝した。主力に巨人・オコエ瑠偉外野手がおり、圧倒的な攻撃力での東京制覇だった。通常、東京都新人戦を優勝したチームは関東新人戦へと駒を進めるのだが、東村山ドリームは出られなかった。出場権がないとされたのだ。

 JSBBの下部組織である東京都軟式野球連盟は、一般社会人カテゴリーのチームを中心とする都内の各地区連盟(支部と呼ぶ)の加盟とチーム登録により成り立っている。学童や少年(中学)は、大人の支部に付随する形での登録となっていた。いってみれば、大人の団体のおまけのような扱いだったのだ。一方で多摩地区のいくつかの市町村には、チーム数が少ないなどの理由で東京都連盟に加盟していない支部が今もある。東村山はそうした未加盟支部のひとつだった。

 自分の住む地区の支部が東京都連盟に加盟しているかどうか――。これは完全に大人の事情であり、子どもたちには何の咎も非もない。自分たちの力ではどうすることもできない。東村山ドリームは関東新人戦だけでなく、翌年の全日本学童マクドナルド・トーナメント東京大会にも出場できなかった。未加盟支部は東京都大会も出場が認められていなかったのだ。

 それ以前にも未加盟支部のチームが新人戦で優勝したことは何度かあり、そのたびに制度が問題視されては、しばらくして騒ぎが沈静化するという繰り返しだった。だが、この時に東京都連盟の専務理事だった牧野勝行さん(故人)は決断と実行の人で、2009年オフには未加盟支部は学童・少年連盟だけでも、新たに作った「準加盟」の手続きをすれば加盟支部同様の扱いで都大会に出場できるように変更された。つまり、東京は大多数の地区で、子どもたちが望めば「小学生の甲子園」と称される全日本学童大会を目指せるようにはなったのだ(現在も一部、未加盟の地区はある)。

全日本学童東京都予選には49支部2チームが参加した【写真:フィールドフォース提供】
全日本学童東京都予選には49支部2チームが参加した【写真:フィールドフォース提供】

連盟に所属せず“大会に出ないチーム”が増加中

 今回、なぜそれを思い出したのかといえば、その「準加盟」であった都内のある支部が昨年、東京都連盟から脱退していたことを知ったからだ。その地区の旧知の役員に話を聞くと、チーム減少に加えて他地区と実力差があってすぐに負けてしまうので、都大会に出る価値も見出せなくなったとのこと。わざわざ登録費を払って東京都連盟に(準)加盟する理由はないという判断だ。所属全チームと話し合った末の結論というからやむなしという気もするが、大人の事情で子どもたちの可能性を狭くしてしまうことを考えると、やはり腑に落ちない。

 とはいえ、東京はましな方なのかもしれない。他県を見回すと、JSBB(実際にはその傘下の支部)に登録することなく活動している学童野球チームは少なくないようだ。市区町村体育協会(スポーツ協会)の下部組織であるスポーツ少年団には所属しているが、軟式野球連盟には所属していないというチームや地区もあれば、地元やその近隣だけで活動が完結しており、都道府県連盟に所属する必要性を感じないというところもある。こうした地区やチームには、全日本学童大会の存在すら知ることなく野球を続けている選手がいるかもしれない。

 もっとも現在は、試合や大会での勝利を目指さないチームも増えている。神奈川県の座間市と相模原市で活動する「座間ひまわり野球倶楽部」は、どの連盟にも属さず「大会に出ない」ことをチーム活動の柱にしている。主宰する“たてぶり先生”こと榊原貴之さんは「野球を楽しむことがチームのモットー。大会を戦うとなると、どうしてもレギュラーと補欠みたいなものができてしまいます。ひまわりではどの選手にも均等に出場機会を与えたいんです」と話す。

 最近は志を同じくするチームとSNSなどを通じてつながり、合同練習や練習試合を行うこともあるという。榊原さんは「そういう試合ではボクは審判をすることも多いので、ウチのチームは打順もポジションも選手たちに決めてもらいます。楽しそうにやってますよ」と笑う。それも選手たちが楽しむ野球の一部となっているようだ。

 野球を始めるきっかけも目的も、人により様々。間口は広く、選択肢は多い方が好ましい。皆が皆、学童野球で日本一を目指す必要はない。それでも、いざ目標を持った時にその可能性が閉ざされているという状況は好ましくないだろう。もう少し柔軟な仕組みはつくれないのだろうかとも思うのだ。

 さて、冒頭のチーム数である。たとえばチーム数増減の傾向を推し量るための指標と考えるならば、有用なデータではある。だが、その実数からこぼれているであろうチームが少なからずあることも頭には入れておきたい。その数字が「8680」に加わったところで実際の競技人口が増えたことにはならないが、そうして切り捨てられる数字が少ない方がより良い制度であろうことは間違いないのだから。

〇鈴木秀樹(すずき・ひでき)1968年生まれ、愛知県出身。南山大卒業後、中日新聞社事業局で主にスポーツイベントの開催に携わる。退社後、フリーライターとして「東京中日スポーツ」「東京新聞」で学童野球を中心に扱う「みんなのスポーツ」コーナーの記者兼デスクとして取材・執筆や編集業務全般を20年以上担当。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて取材、執筆中。
https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know

(鈴木秀樹 / Hideki Suzuki)

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