「負けて泣く子」が即立ち直れる? “小学生の甲子園”で初実施…大人の発言NGの試合後交流

全日本学童軟式野球大会で「アフターマッチファンクション」を導入
野球界の新たな常識となるか――。8月11~18日に新潟県で開催された“小学生の甲子園”「高円宮賜杯 第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」では準々決勝以降、試合後に両チームの選手同士で戦いを振り返り交流する「アフターマッチファンクション」(以下、AMF)が実施された。スポーツマンシップの醸成と子どもの自主性の育成が目的で、今大会では初めての試み。全日本軟式野球連盟(以下、全軟連)の清野祐さんに、実際に行ってみての感想などを聞いた。
AMFは元々ラグビーに根付いた試合後の交流文化。全軟連では2023年から小学生女子の全国大会「NPBガールズトーナメント」で導入している。試合後にJSPO(日本スポーツ協会)公認コーチ3の資格を持つ指導者がファシリテーター(進行役)となって主旨説明を行い、両チームの選手が5~8人程度の小グループに分かれてグループトークを実施。約20分間、両チームの監督・コーチは一切発言せずに選手たちだけで話し合い、最後にその内容を全体の前で発表する流れだ。
「負けて泣いている子も、AMFをやる中で気持ちが整理され、終わる頃には泣き止んで相手チームの選手と仲良くなって会場を出ていた。AMFで心の整理がついたあとに各チームでミーティングを行えば、次につながる前向きなミーティングができる。そういう意味で良い効果だと思いました」
清野さんはそう手応えを口にする。実際に、選手たちは初めてAMFに参加する際、最初は敗戦のショックを引きずって泣いたり、戸惑いの表情を見せたりしていたが、ファシリテーターに促されて話し始めると徐々に打ち解けていった。
互いの「良かったところ」や試合の振り返りについて話すほか、地域の名物や方言を教え合うなどして雑談で盛り上がる場面も見られた。あるグループでは、「際どいコースに投げても打ってきた」と相手打者を称えた先発投手に、相手チームの選手が「何を食べたら身長が高くなるんですか?」と逆質問。「牛乳とパンとごはん」と答え、視線を集めていた。

「試合後に自然と輪ができて話し始める流れができるのが理想」
清野さんによると、導入前は全軟連内で「(実施は)難しいのではないか」「勝ち負けが決まったタイミングで交流する文化も概念もない中で、導入するのはいかがなものか」といった懸念の声が上がっていたという。
今大会は男子選手が多くを占めるが、一般的に小学生年代は女子より男子の方が精神年齢が低いとされる。清野さんは「男子は試合後に負けて泣きじゃくる選手も多いし、勝ちにこだわっているから(交流は)必要ないという考えの指導者もいる。選手同士の仲間意識も女子の方が強いんです」と説明する。
それでも、1つの挑戦として導入に踏み切った。結果的に選手たちからは「楽しかった」といった声が聞かれ、指導者からも好評を得たことから、清野さんは「自分たちが想像していたよりも協力的に参加していただいて、評価もしていただいた」と安堵した。
全軟連は来年以降も実施する想定でいる。鍵を握るのはファシリテーターの人選。清野さんは「話者の力によって内容の充実度は変わる」と話す。今大会は新潟県内から指導者を集めたが、愛媛県開催の来年は愛媛県とその隣県など周辺地域で探すことになる。
「試合後に自然と輪ができて話し始める流れができるのが理想。今大会中、負けた後に対戦チームのところへ1人で『今日はありがとうございました。次も頑張ってください』と伝えに行った選手がいるのですが、AMFを通じてそういう選手が1人でも多く育ったらうれしいです」と清野さん。子どものスポーツマンシップは、大人の試行錯誤と共に醸成されていく。
(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)
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