「ドンマイ」「次頑張ろう」は無責任? カバーリングの深意…野球から学ぶ“道徳心”

仲間を安心させるカバーリング…甲斐JBCで伝える勝利よりも大切な道徳心
野球の技術や勝利の喜び以上に伝えたいことがある。今夏に全国大会に出場した山梨の少年野球チーム「甲斐JBC(ジュニアベースボールクラブ)」は、野球を通して学ぶ道徳心を大切にしている。チームメートにかける言葉1つを意識するだけで、人間力が磨かれる。
「なぜ、外野手はカバーリングをするんだろう?」
甲斐JBCを率いる中込裕貴監督は選手に問いかける。選手からは「内野手が暴投した時、走者を次の塁に進めるのを防ぐためです」と返ってくる。指揮官はうなずいてから、別の答えも示すという。
「野球の考え方としては正解です。ただ、私が伝えたいのは、その先にある道徳心。外野手がカバーしてくれると思えば、内野手は思い切って送球できます。仲間に安心感を与えるのがカバーリングであり、その考え方はグラウンドを離れても大切だと思っています」
捕手がショートバウンドの投球を体で止めるのも、同じ意味を持つ。捕手が投球を後ろに逸らさないという信頼感があれば、投手は恐れず腕を振って低めに球を投げられる。仲間への思いやりに加えて、中込監督は責任を取る覚悟も選手に説く。

投手戦で敗れた仲間にかける言葉 「ドンマイ」よりも…
1年ほど前の試合で、二塁手と右翼手が打球を譲り合い、2人の間に落ちるテキサスヒットを許した場面があった。指揮官は守備を終えてベンチに戻ってきた2人に「どっちの打球だった?」とたずねると、互いに目を見合わせて黙ったという。すかさず、中込監督は指摘した。
「どちらの選手も、自分の打球でしたと言わないと駄目なんです。責任を仲間に押し付けるなと叱りました。相手に任せた方が良いと感じたとしても、責任を取れる人間になってほしいんです」
最近になって、試合で全く同じ場面が訪れた。中込監督が「どっちの打球だった?」と二塁手と右翼手に聞くと、2人とも「自分の打球です」と答えたという。責任を取る覚悟を感じた指揮官は、「それで良い」と一言伝えただけだった。
道徳心を磨くために、他のチームの試合を教材にする時もある。ある大会で、タイブレークの末に先発投手が連続四球を許して1-2でサヨナラ負けを喫したチームがあった。中込監督は選手に「もし、自分のチームで同じことが起きたら、投手にどんな声をかける?」と問う。選手からは「ドンマイと言います」「次は頑張ろうと励まします」など回答が出る。指揮官は「いい言葉だな」と同意してから、こう話す。
「その言葉は、どこかで投手のせいにしていない?」
先発投手はタイブレークに入るまで、相手打線を1失点に抑えている。中込監督が求めるのは「お前のせいじゃない。打てなかった俺たちの責任」という声かけ。ドンマイは決して悪い言葉ではないが、見方によっては投手に責任があると捉えられる。
中込監督は「自身の指導は厳しい」と自覚している。手を抜いたプレーや仲間の信頼を裏切る言動には、躊躇(ちゅうちょ)なく叱る。「選手たちは色んなことを言われて、頭がパンパンなはずです。今は理解できなくても、中学や高校で『あの時の監督の言葉は、こういう意味だったのか』と気付く時が来れば良いと思っています」。野球への取り組み方は、生き方そのものにつながっていくと考えている。
(間淳 / Jun Aida)
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