160人超の“巨大組織”も…控えからプロが育つ理由 全国3冠チームの腐心「我慢の時代と違う」

「世田谷西シニア」蓬莱昭彦総監督が語る…中学生との向き合い方
野球はメンタル面が大きなウエートを占めるスポーツ。8月の「第18回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」を制するなど、“全国3冠”を達成した中学硬式の強豪「世田谷西リトルシニア」の蓬莱昭彦総監督は「できるだけ親身になって選手に接するように心がけています」と語る。Full-Countでは小学生・中学生世代で全国制覇を成し遂げた指導者を取材。心身ともに成長段階にある中学生の、持っている力を発揮させるには「気持ちの面が大事です」と力を込める。
蓬莱氏は1980年代に西武と中日で計309試合に出場した元外野手。現在は世田谷西で子どもたちを指導する。「中学生は、野球が嫌にならないようにすることが大切だと思っています。練習に来るのが嫌だなとならないように、すごく気を使っています。声をかけられると『見られてるんだ』と思うでしょう。何気ない言葉でも、言われたら違うものです」。そう話しながら、選手に対して「今の感じで大丈夫」「良くなってるじゃないか」「日曜日、頼むぞ」などと声をかけ続けていた。
各学年50人以上、3学年合わせると160人を超える大きな組織。1人1人に目を配るのは大変だが、全員のモチベーションを保つために積極的にコミュニケーションを図る。「僕らもそうでした。プロ野球選手時代、広岡(達朗)監督から声をかけられたら『あっ、見てくれているんだ』ってなりましたからね。戦力外となる時は声をかけられなくなりますから、声かけは大事です」。
些細なことでいいという。「目を合わせたり、ニコッと笑ってあげるとかでもいい。目配り、気配り、心配りですよ」。それは野村克也氏に教わったそうで「人間、モチベーションや心は大事な部分です。やる気がなくなったらプロ野球選手も終わりですから。目をかけてくれたり、助けてくれたりしたら、その人のためにも一生懸命プレーします」と説明した。
ミスしても叱責することはない。試合ではその時のメンタル次第で同じコースを打てたり打てなかったりする。「そりゃそうです。だって丸い球を、細いバットで打つんだからミスもしますよ」。一流とされるプロでも7割が凡退するのが打撃である。「『なんで打てなかった?』って言っても仕方がない。打てないものは打てないんです。次の打席に生きるような助言をしてあげればいい。終わった後に結果を言っても何も変わらないですからね」。

補欠だったソフトバンク・廣瀬に「プロに行ける」
スパルタ指導が当然のようになされていた昭和の時代とは違う。「昔はひどいことを言われました。それでもやめられない。我慢の時代だったけど、今は変わってきています。やかましく言っていたらいけません」。伸び伸びプレーできる環境から強豪高校へ進み、東京六大学や東都大学リーグなどでプレーするOBも多い。
2023年ドラフト3位でソフトバンクに入団した廣瀬隆太内野手ら、プロにも複数の選手を輩出。その廣瀬が世田谷西に在籍中はレギュラーではなかったと振り返る。「補欠だった廣瀬に『一生懸命やっていたらプロに行ける可能性はあるよ』って言いました。他の選手と比べて打球が強かったし、しっかり投げられたり守れるようになったらと思っていました」。廣瀬は慶応高で通算41本塁打。慶大では主将も務めるなど着実に成長していった。
平日の練習は火曜日と木曜日の2回。神宮室内練習場で行う際は、毎回OBが4、5人駆けつけて一緒に汗を流す。「居心地がいいんじゃないでしょうか。プレッシャーもないですし」。整えてきたチームの雰囲気は好循環をもたらす。高校や大学で活躍する先輩のプレーを間近で見られるのは、中学生にとって大きな勉強にもなる。
蓬莱総監督は10月末開催の「日本一の指導者サミット」に出演予定。「些細なことなんですけど、野球の勝ち負けって、メンタルの部分が意外と大きいんですよ」。68歳となった今も、指導に注ぐ情熱は少しも変わらない。柔和な笑みを浮かべながら、親身になって的確な助言を送り続ける。
中学硬式で“全国3冠”…世田谷西シニアの指導・練習法を紹介!
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(尾辻剛 / Go Otsuji)
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