“打ち損じ”の原因は「乱視」? 日常生活や勉強にも影響…親子で知るべき基礎知識

野球少年の保護者必見…大きく3タイプある乱視の基礎知識
子どもの視力が落ちたと聞くと、多くの保護者は「近視が進んだのでは」と心配することが多い。しかし、見えにくさの原因は近視だけではなく、「乱視」が関係している場合も少なくないという。文部科学省による令和6年度の調査によると、裸眼視力1.0未満の子どもは小学生で3割を超え、中学生では約6割、高校生になると7割程度にものぼる。視力の低下が当たり前になりつつある今、野球少年をもつ保護者が知っておきたい乱視の基礎知識とは――。
9月30日に開催されたジョンソン・エンド・ジョンソンのコンタクトレンズ「アキュビュー(R) 乱視用」のイベントで、北里大学医療衛生学部の半田知也教授が、乱視に関する正しい知識とスポーツへの影響について解説した。楽天イーグルスのスポーツビジョンアドバイザーも務める半田教授によると、乱視には大きく3つのタイプがあるという。
直乱視:横方向が濃く見える
倒乱視:縦方向が濃く見える
斜乱視:斜めが濃く見える
要するにピントがずれて、ぼやけたり二重に見えたりするのが乱視で、ずれる軸の方向によって見え方が異なるということ。眼科で視力検査を受けると、視力表の下にグレーの放射状の線があり、「縦が濃いですか、横が濃いですか」と聞かれることがあるが、これは乱視のタイプを確認しているのである。

動くボールを正確に捉える必要がある野球において、乱視が与える影響は大きい。具体的には以下の2つの影響が考えられるという。
【1】反応速度が大幅に低下
半田教授の研究データによると、乱視による「視力応答速度」への影響は深刻だ。乱視がない状態では0.7秒程度で反応できるが、1.25D(乱視負荷度数)の斜乱視があると1.2秒以上かかる。この0.5秒の差は、バッターボックスでの一瞬の判断を左右するという。
【2】距離感とタイミングがずれる
輪郭がぼやけるため、ボールがどこにあるか正確に把握できず、打点がずれてしまう。野球では視覚情報の処理速度が勝負を左右するため、見えにくさが集中力の低下や判断ミスにつながり、パフォーマンスに影響する。
日常生活に与える影響も想像以上に大きい。半田教授が示したデータによると、読書速度が乱視の有無で大きく変わる。乱視がない場合は1分間に350文字程度読めるが、1〜3ジオプター(乱視の度数を示す単位)の乱視量の増大にともなって、読書速度は大幅に低下し、特に斜乱視だと激減するという。「文字を読まない日はありません」と半田教授は指摘。教科書やノート、スマートフォンの画面など、子どもたちは常に文字を見ており、乱視による見えにくさは学習効率の低下や疲労の蓄積につながる。
運動だけでなく、日常生活全般に「見えにくい」「見えづらい」は悪影響を及ぼす可能性が高いことを、保護者は認識してほしい。

乱視は変化する…親子で「定期的なチェックが重要」
乱視は一度診断されたらそれで終わりではない。成長期の子どもは体の変化に伴い、目の状態も変わりやすい。それだけでなく、保護者世代も気をつけるべき理由として、「若い頃から乱視があるから変わっていないと思われがちだが、実は度数や軸方向が変わることがある」と半田教授は指摘する。
実際に、40歳未満では直乱視の割合が多いが、加齢に伴って倒乱視の割合が増加するというデータもある。子どもは学校での眼科検査もあるが、40代、50代と乱視のタイプが変わる可能性も踏まえ、保護者も一緒に定期的なチェックや眼科受診を習慣にするのがいいだろう。
親子で眼科検診を受けることには、もう1つの効果がある。子ども自身が視力の変化に関心を持つようになり、「少し見えにくい」といった小さな変化も保護者に相談しやすくなる。
半田教授は「乱視は特別な病気ではなく、誰にでも起こりうるもの。自分の目の状態を正しく把握することが重要」と強調する。子どもの場合、自分から「見えづらい」と訴えないことも多い。保護者は近視だけでなく乱視の影響も認識し、学校の視力検査だけに頼らず、「少しおかしいな」と感じることがあれば、積極的に眼科を受診することが大切だ。適切な矯正により、学習効率やスポーツのパフォーマンス向上が期待できる。子どもの視力について、改めて見直す機会としたい。
(大橋礼 / Rei Ohashi)
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