「前でボールを離せ」はNG? 理想のフォーム習得&怪我を防ぐ“実戦的”シャドーピッチング

怪我のリスクを減らせる“実戦的”シャドーピッチングとは(写真はイメージ)
怪我のリスクを減らせる“実戦的”シャドーピッチングとは(写真はイメージ)

菊池タクト氏ら専門家が教える、故障を防ぐ投げ方の基準

 幼少期のうちにより良い投球フォームを習得することは、球速アップや怪我を予防するために極めて重要だ。しかし、子どもたちに「前で投げろ」や「腕をしならせろ」といった大まかな言葉で伝えても、間違ったフォームや体に無理な動作につながりやすい。投球フォーム改善に効果的なのがシャドーピッチングだが、使う道具の工夫や、意識するポイントを変えるだけで、効能は大きく変わる。専門家たちが推奨する故障リスクを減らす体の正しい使い方と、道具を使った実践的な練習法について、具体的に見ていこう。

・投球時に肩や肘に負担をかけない、正しい腕の角度と体の使い方はどのようなものか。
・投球動作で大切な骨盤の回旋と前足の安定を、自主練習で身につけるにはどうすればよいか。
・野球を始めたばかりの選手が、投げ方の基本をストレスなく覚えるにはどんな方法があるか。

 現在、ソフトバンクで指導している野球スキルコーチの菊池タクトさんは、怪我を防ぐためにも、シャドーピッチにおいて、腕を上げたときに上腕から前腕が90度の角度になる「Lポジション」の位置を体に覚えこませることを重視している。肘がピンと伸びた状態で投げるのは肘に負担がかかるため、90度の角度を保ったまま腕を振り下ろす「ハンドダウン」が正しい動きだと述べている。また、「前で投げろ(前でボールを放せ)」という指導は誤解を生みやすいとし、胸を前に倒す動作が伴うことでリリースポイントが自然と前になるのが本来の動きだと説明。胸郭部(胸のあたり)を柔らかく使い、胸を張るタイミングと、胸を閉じるタイミングを作ることが、安定したピッチング・スローイングの鍵だという。

 最速155キロを誇る元独立リーガー・内田聖人さんが運営する投球特化型アカデミー「NEOLAB」では、シャドーピッチングをより試合の感覚に近づけるため、棒を使った「スティックシャドー」を推奨している。用意するのは、適度な重みのある30~40センチ程度の棒。リリースの瞬間、肘が体の横のラインよりも前に出ないようにするのがポイントだといい、頭の後ろでボールを叩くようなイメージで行うことで、肩や肘への負担が減り、効率よく力を伝えられるようになるとアドバイスしている。また、棒を振り下ろすときに、踏み込んだ前足がグラグラすると力が逃げてしまい、地面反力を活かせなくなるため、しっかり前足で支え、骨盤から上体を回旋させる意識を持つことが大切だという。

 NPBジュニア選手も輩出している東京の少年野球チーム「町田玉川学園少年野球クラブ」の菊池拓平代表は、効率のいい投げ方を習得するため、100円ショップでも買える「ひしゃく」を使った「ひしゃくシャドー」を取り入れている。先端に重みがあり空気抵抗を感じやすいため、適切な投球動作の感覚を掴みやすいという。ひしゃくの先を体の遠くに離さず、ステップ足側(右投げなら左足側)にしっかり振り下ろすことが大切になると指摘。菊池代表は、野球を始めたばかりの子どもたちが、うまく投げられないことでイップスなどのストレスを感じてしまうことを心配しており、ひしゃくを使ったドリルは重さの負担もなく、誰でも簡単にできるため、ボールを使わずに投げ方の基本を身に付けるのに適していると述べている。

 投球フォームの課題を直して、安定した技術を身につけるためには、選手の抱える問題に合わせて道具の力を借り、正しい動作の感覚を正確に体に教え込むことが大切だ。Lポジションから始まるハンドダウンへの胸の動き、棒を使った肘抜け防止と前足の安定、ひしゃくを使った正しい腕振りの感覚など、専門家の知識に基づいた具体的な練習は、抽象的な言葉では伝わりにくいフォームの課題を解決するヒントになるはずだ。

・トップで作った「Lポジション」の腕の形を保ち、胸を倒す動きに合わせて腕を振り下ろす「ハンドダウン」を行うことで、肘だけに頼らない体全体の連動を実現する。
・棒を使った「スティックシャドー」を行いながら、前足の膝が沈まないようしっかり支える意識を持ち、骨盤から上体を回旋させる感覚を練習する。
・先端に重みのあるひしゃくを使ったシャドーで、空気抵抗を感じながらステップ足側に振り下ろす練習を行い、誰でも簡単にできるドリルで基本の形を身につける。

(First-Pitch編集部)

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