SNS時代にはびこる誤解「圧倒的に地味」 ゴロ捕球も超丁寧…小学生に明かす“プロの裏側”

野球教室で指導する元西武・松坂健太氏(右)【写真:喜岡桜】
野球教室で指導する元西武・松坂健太氏(右)【写真:喜岡桜】

熾烈なポジション争いを経験した元西武・松坂健太氏「プロも地味な練習ばかり」

 一流の選手は見えないところでコツコツと努力をしている。日本一の手袋生産量を誇る香川県東かがわ市で11月22日、「てぶくろの町 軟式野球教室 Supported by Kasco」が行われ、西武と日本ハムでプレーし、2024年に軟式野球最高峰の大会「天皇賜杯」に同県代表として出場した松坂健太さんが講師を務めた。参加した小学生約40人へ、動きに派手さがない基礎練習こそ上手になるために時間を割くべきメニューであることを説いた。

 大阪・東海大仰星から西武へ2004年に入団した松坂さんは、プロ4年目の2007年に初の1軍出場を果たすと、2008年には就任1年目の渡辺久信監督の下で初の開幕スタメン入り。4年ぶりのリーグ制覇と、日本一を果たすチームで自己最多の55試合に出場し、赤田将吾氏、栗山巧らと外野のポジションを争った。

 2010年に戦力外通告を受けるまで、常に優勝を争う西武でトッププレーヤーとして戦っていた経験から、子どもたちへ「プロ野球チームのYouTubeなどで、派手な練習をしているのを見ることがあると思うけど、それは練習メニューの一部。プロだってみんなと同じ地味な練習ばっかりしているんだよ」と語りかけた。

 高校を卒業するまでのアマチュア時代だけでなく、プロ野球選手になってからも、コーチに転がしてもらったゴロをゆっくり丁寧に捕球しては送球を繰り返していたという松坂さん。片膝を地面に着き、上下左右へトスされたボールをグラブや素手で捕り続ける「キャッチングの練習」もよくしたという。これは当時の西武の選手たちも日常的にしていた練習だ。

 野球教室でも、ボランティア5人がゴロを転がし、小学生が捕球して投げ返す練習メニューが組み込まれた。「みんなが上手じゃないからするメニューじゃないよ。プロもこれをやっているから」。そう話す松坂さんを、球児たちは驚いた様子で目を見開き、見上げていた。

「地味な練習」の積み重ねの大切さを伝えた松坂氏【写真:喜岡桜】
「地味な練習」の積み重ねの大切さを伝えた松坂氏【写真:喜岡桜】

指導者と子どもの信頼関係ができると「成長スピードって、ものすごい」

「僕は今、会社員として働いていて、野球コンテンツの配信でご飯を食べているわけじゃないから言いますけど、今の子たちはSNSが身近にある世代なので、ダイナミックな練習や、珍しい形状をした道具を使った練習に目を引かれやすい。それを取り入れれば最先端とされる。でも、野球が上手な人やプロは、圧倒的に“地味な練習”に時間を使っているんですよ」

 その“地味な練習”も教え方はさまざま。高松市内で月に数回、小・中学生の指導もしている松坂さんは、自らの教え方に「合う子もいれば、そうじゃない子もいる」と明かす。スポーツをする上での感覚や、指導者の言葉をどう解釈するかも千差万別。成長していく過程で、いろいろな指導者によるコーチングを受け、子どもたちが「この人に教わりたいと思える人に出会えるかどうか」も上達のカギだと語る。

「子どもたちが、『この人に教えてもらいたい』と感じているどうかを重要視しないといけないと思います。そうなった子どもは一気に心を開きますし、それがこちらにも一瞬にして伝わってきます。そこで初めて信頼関係ができて、子どもの世界がすごく広がって、自主練してきたなとこちらが分かるくらい“地味な練習”に前のめりになる。そうなれた子の成長スピードって、ものすごいんですよ」

 野球教室の最後に、松坂さんは「今日この練習をやってみて、良いな、これ続けてみたいなと思ったら明日からやってみて」と呼びかけた。合うか合わないかは本人次第。だが、基礎を大切にすることだけは「俺とみんなとの約束」と力強く語りかけていた。

(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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