「弱点を指摘するのは簡単」 青学大でプロ32人輩出…名将が唱える指導のモットー

青学大元監督の河原井正雄氏【写真:佐藤直子】
青学大元監督の河原井正雄氏【写真:佐藤直子】

今も昔も変わらない…青学大で29年間指揮を執った河原井正雄氏の「伸ばす」指導

 1987年から計29年にわたり青山学院大硬式野球部を監督として率いた河原井正雄氏。在任中に東都大学リーグ戦で12度、全日本大学選手権で4度優勝に導いた名将は、2024年から故郷の群馬で「河原井正雄野球教室」を開催している。第2回の今年は12月6日に高崎市の吉井中央公園野球場で行われ、ボーイズリーグの86選手が集まった。

 運営をサポートするのは、元ロッテ監督の井口資仁氏、ソフトバンク3軍バッテリーコーチの清水将海氏、同じくソフトバンクで投手コーチを務める倉野信次氏、元広島で福井工業大チーフ投手コーチの澤崎俊和氏の4人がプロ入りした“1996年組”だ。プロも羨む講師陣から手ほどきを受ける、中学生の様子を見る河原井氏の視線は真剣そのもの。力強い眼差しを送りながら、時折「あの投手は投げ方が柔らかくていいね」「今の打者は良かったぞ。もう1回ロングティーをやって見せてくれ」と声を掛けるが、細かな技術指導は一切しない。

 河原井氏は「中学生のうちは気持ち良く、伸び伸びとやらせてあげるのがいい。指導者にとって弱点を指摘するのは簡単なこと。そうではなく、選手の良いところを伸ばしてやればいい。長所が伸びれば、弱点は消えるんだから。それは大学生になっても同じことですよ」と、指導する際のモットーを明かす。

 弱点を修正する際に「こうやってはダメ」「ああした方がいい」と指導された選手たちは、直すことに意識が向いてしまうため、「良いところ」まで影を潜めてしまうことがあるという。もちろん、怪我に繋がる恐れがある場合には修正することもあるが、「選手それぞれが自然に覚えた動きでいい」と河原井氏。例えば、力強いスイングができる選手には「三振してもいいから、全てのボールを力強く振ってくるように」と指示。実際に三振してベンチに戻ってきても、「良いスイングができていたぞ。それでいいんだ」と背中を押すという。

河原井氏の下には今も多くの元プロOBが足を運ぶ【写真:佐藤直子】
河原井氏の下には今も多くの元プロOBが足を運ぶ【写真:佐藤直子】

 目的は、小さな成功体験を重ねながら、選手の自信を深めることにある。成功体験は選手の「もっと上手くなりたい」という意欲をかき立て、自ら行動する力を湧かせることにも繋がる。注意しなければならないのは「褒め殺しとは違うんですよ」という点。「むやみやたらに褒めてもダメ。選手のプレーや行動をしっかり見て『ここだ!』というタイミングで、失敗してもいいからやってこいと背中を押す。良いところが伸びて自信が深まると、自然と弱点とされていた箇所もレベルが上がり、弱点ではなくなるものなんです」と力を込める。

 井口氏は以前、「高校と大学で“やらせる指導者”ではなく、“選手に考えさせ、自主性に任せてくれる指導者”に出会ったことが、自分の成長を促し、プロに入って壁にぶつかった時も乗り越える力がついた」と話していたことがある。在任中は、NPB現役最年長のヤクルト・石川雅規投手、レッドソックス・吉田正尚外野手、オリックス・杉本裕太郎外野手ら計32人の教え子がプロ入りし、今でも数多くの卒業生が恩師の元を訪ねるのは、決して偶然ではないだろう。

「良いところを伸ばせば、弱点は消える」

 今も昔も変わらないモットーで、選手の成長を促し続ける。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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